発売日: 1978年10月6日
ジャンル: ニュー・ウェイヴ、ポストパンク、アートロック
概要
『Go 2』は、XTCが1978年にリリースした2作目のスタジオ・アルバムであり、デビュー作『White Music』の異常なテンションと知性の暴走を引き継ぎながら、さらに実験的でアート寄りの方向性へと突き進んだ“混乱と構築のポップ実験室”である。
タイトルの“Go 2”は、語感の軽快さと、“続編でありながら別物”という逆説的な自己定義を兼ね備え、アートワークにはアルバム内容ではなく“なぜこのジャケットが存在するのか”を延々と語る長文のテキストが印刷されているという、極めてメタ的なコンセプトが貫かれている。
音楽的には、アンディ・パートリッジとコリン・モールディングという二人のソングライターがともに楽曲を書き下ろし、それぞれの個性が前作以上に明確化。
パートリッジは錯乱的な語りとスリリングなビートを展開し、モールディングはよりメロディアスで内省的な楽曲を提供しており、XTCが“狂気と叙情”の両極に引き裂かれながら進化する過程が、このアルバムには生々しく記録されている。
全曲レビュー
1. Meccanik Dancing (Oh We Go!)
機械仕掛けのダンスをテーマにしたオープニング・ナンバー。
ロボット的なビートと断片的なコード進行が、“自由な踊り”とは真逆の“管理された動き”を皮肉る。
2. Battery Brides (Andy Paints Brian)
ブライアン・イーノへのオマージュ/風刺とも言える実験的トラック。
冷たいシンセとギターのカットアップが不穏な空間を作り出し、“電池仕掛けの花嫁たち”という比喩が現代社会の消費的恋愛を批評する。
3. Buzzcity Talking
目まぐるしいリズムと跳ねるようなヴォーカルが印象的なパートリッジ節全開の一曲。
“バズ(喧騒)都市”の不条理を、ポップなリズムに乗せて痛烈に描く。
4. Crowded Room
モールディングによる内省的ポップソング。
“混雑した部屋”における疎外感や孤独感を、穏やかで不安定なメロディに託している。
アルバムに一息つかせる静かな名曲。
5. The Rhythm
タイトル通り“リズム”をテーマにしたミニマルなナンバー。
単語の反復や変則ビートにより、言葉と音の分離・再構築が試みられている。
6. Red
鮮烈なギターと疾走感が光るロックナンバー。
“赤”という抽象的イメージを、怒り、情熱、破壊性などさまざまな感情に変換する。
本作の中でも最も“直情的”なトラックのひとつ。
7. Beatown
架空の町“Beatown”を舞台にした幻想的ディストピア叙述。
リズムが歪みながら展開し、ポストパンク的イメージとサウンドの融合が試みられている。
詩的かつ抽象度の高いリリックが特徴。
8. Life is Good in the Greenhouse
シンセ主導の実験作で、人工的な“温室”内の幸福を風刺的に描く。
テクノポップ的アプローチを予感させる、XTCの電子音楽的試行。
9. Jumping in Gomorrah
破壊と享楽を歌い上げる攻撃的かつサイケなナンバー。
旧約聖書の“ソドムとゴモラ”の堕落に飛び込むというモチーフが、性的・社会的逸脱を象徴。
10. My Weapon
タイトルそのままに、男性の支配性や暴力性を風刺する危うい一曲。
パンク的攻撃性とアートロック的不穏さがぶつかり合う。
11. Super-Tuff
モールディングらしいメロウなミッドテンポナンバー。
“タフであること”がテーマだが、その裏にある繊細さや脆さがにじむ。
12. I Am the Audience
アルバムの締めにふさわしい、内省と自己観察のポストモダン的テーマ。
“自分は観客である”というメタ的視点が、XTCの音楽観そのものを体現している。
総評
『Go 2』は、XTCが“過剰なパンク・ニューウェイヴの身体”から、“知的かつ観念的なアートポップの脳”へと進化しようとする過渡期に生まれた記録である。
混沌と実験、過激と繊細、理性と錯乱――そのすべてがアルバム全体に渦巻き、統一感よりも“振れ幅のダイナミズム”によってリスナーを翻弄する。
“ポップであること”を問い直し、“曲として成立するギリギリ”の構造とアイデアを遊ぶXTCの姿勢は、同時代のポストパンク/アートロックと共鳴しつつも、どこか孤立している。
『Go 2』はまさに、“行き先のわからない列車”に乗せられたような感覚――しかしそれこそが、このバンドの美学なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Gang of Four – Entertainment! (1979)
政治性とポストパンクの緊張感が『My Weapon』と共鳴。 - Brian Eno – Taking Tiger Mountain (By Strategy) (1974)
抽象的アートロックとポップの融合。『Battery Brides』的アプローチと重なる。 - The Fall – Dragnet (1979)
語りと反復、混沌と構成が同居する実験的ポストパンク。 - Talking Heads – More Songs About Buildings and Food (1978)
リズムと知性の融合。『Meccanik Dancing』と並ぶ都市の踊り。 - Magazine – Secondhand Daylight (1979)
美しくも冷たいメロディと抽象詩。『Life is Good in the Greenhouse』と親和性あり。
コメント