発売日: 1971年9月
ジャンル: プログレッシブロック、ジャズロック、ハードロック
概要
『Pilgrimage』は、Wishbone Ashが1971年にリリースした2作目のスタジオ・アルバムであり、前作で提示したツイン・リード・ギターの革新性を土台にしつつ、より広範な音楽的探究を試みた“実験的巡礼録”とも言える作品である。
タイトルに込められた“巡礼”という言葉が示す通り、本作ではハードロック、フォーク、ジャズ、ブルースといったジャンルを横断するサウンドが展開され、バンドの多面的な音楽性が開花している。
前作に比べて構築美よりも即興性やフレーズの流動性が強調され、ジャズロック的アプローチが顕著に現れている点が特徴的。
また、インストゥルメンタル・トラックの比率が高く、演奏による“語り”を重視した構成となっており、音楽的自由度を最大限に活かした作品である。
本作をもってWishbone Ashは、ツインギターのパイオニアとしての立場を固めながらも、“技巧に溺れず音楽に奉仕する”という姿勢を示し、70年代の英国ロック・シーンにおける独自のポジションを築いていった。
全曲レビュー
1. Vas Dis
アルバム冒頭を飾る、異色のジャズ・インストゥルメンタル。
スキャット風のヴォーカルと高速ユニゾンフレーズが印象的で、まるでWeather ReportかSoft Machineのようなジャズロック的展開を見せる。
バンドの技術力と柔軟性が前面に出た一曲。
2. The Pilgrim
アルバムの中核を成す10分超の大作で、“巡礼者”というテーマを音で語る壮大な組曲。
スローなイントロからミステリアスなギターの掛け合いへと移行し、中盤以降はフォーク調の展開からラウドなギターソロへと至る。
まさに“旅路の音”を描く叙事詩的楽曲。
3. Jail Bait
本作中で最もストレートなロックンロール・ナンバー。
ブルージーなリフとダイレクトなビートが気持ちよく、“危うさ”をテーマにしたリリックもロックンロール的快楽を象徴している。
ライヴでの定番曲となる。
4. Alone
アコースティック・ギターとヴォーカルによる繊細なフォーク・バラード。
“孤独”というテーマを静かに見つめるような語り口で、前曲とのコントラストが鮮やか。
ツイン・リードの華やかさとは別の、内省的なWishbone Ashの一面が表れる。
5. Lullaby
文字通り“子守唄”を思わせる、穏やかで短いインストゥルメンタル。
エレガントなギターの響きがアルバム全体にやすらぎのひとときを与える、インタールード的役割を果たす。
6. Valediction
宗教的/叙情的テーマを感じさせる、スローなテンポのフォーク・ロック。
静かな語りから次第に盛り上がり、ギターソロが情感を伴って伸びていく構成は、プログレ的構築美を湛えている。
“告別”というタイトルのとおり、物語性が強く、アルバム後半のクライマックス。
7. Where Were You Tomorrow
ブルース色の強いロックンロール・ジャムで、ライヴ録音を採用。
観客の歓声も収められており、“即興性”と“現場の熱”がそのままパッケージされている。
ジャズとブルースの精神的接点を感じさせる締めくくり。
総評
『Pilgrimage』は、Wishbone Ashがデビュー作で提示したスタイルを基盤に、さらに音楽的な探究心を前面に出した“旅するアルバム”である。
ツイン・ギターによる構築的な美学は維持しつつ、即興性、ジャンル横断、スピリチュアルなテーマ性を加えることで、バンドの器楽的深度と精神性が一層豊かになっている。
本作は、のちの大作『Argus』への布石としても重要であり、ジャズやフォークの要素を積極的に吸収しながら、あくまで“歌心”と“叙情”を忘れない姿勢が、他のプログレ・ハード系バンドとの差異を際立たせている。
“巡礼”とは自らの音楽性の可能性を探す旅でもあり、その記録として『Pilgrimage』は、Wishbone Ashの原点と進化の交差点を刻んだ一枚なのである。
おすすめアルバム(5枚)
- King Crimson – Lizard (1970)
ジャズとプログレの融合。『Vas Dis』的な即興性を共有。 - Jethro Tull – Aqualung (1971)
フォークロックとハードロックの混成。『Valediction』との文脈が重なる。 - Soft Machine – Third (1970)
よりアヴァンギャルドなジャズロック作品。『Pilgrimage』の精神性と接点あり。 - Camel – Camel (1973)
インスト志向とメロディ重視のプログレとして共振する初期作。 - Man – Be Good to Yourself at Least Once a Day (1972)
ジャムバンド的展開とプログレの融合が、Wishbone Ashのライブ的感覚と共鳴。
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