
発売日: 1972年3月
ジャンル: サザンロック、ブルースロック、ソウル
概要
『Wet Willie’s Second Album』は、1972年に発表されたWet Willieの2作目のスタジオ・アルバムであり、バンドのサウンドがより洗練され、南部の熱気とソウルフルなエネルギーが一体となった“サザンソウル・ロック”の名作である。
前作ではラフでブルージーな勢いが前面に出ていたが、本作ではソングライティングの成熟、グルーヴの強化、そしてジミー・ホールのヴォーカル表現の深化によって、バンドの個性が一段と際立っている。
キャプリコーン・レコードという土壌の中で、彼らはオールマン・ブラザーズ・バンドのジャム志向とは異なる、R&Bとゴスペルに根差したタイトでグルーヴィーなサウンドを構築。
サックスやハモンド・オルガンを含む編成もバンドの音に彩りを与え、ブラックミュージックへの深い愛情と消化力が強く感じられる。
このアルバムをもって、Wet Willieは“南部白人ロックバンド”というカテゴライズを超えた、“南部の音楽を総体的に鳴らすバンド”としての評価を得ることになる。
全曲レビュー
1. Faded Love
ブルージーなフィーリングにあふれたバラードで、アルバムの幕開けにふさわしい哀感漂う楽曲。
“色褪せた愛”というタイトル通り、過去への郷愁と未練を、ジミー・ホールが情感たっぷりに歌い上げる。
2. Snatching It Back
クラレンス・カーターのカバーで、R&Bクラシックを骨太なサザン・グルーヴで再解釈。
バンド全体の演奏が生き生きとしており、ホーンとリズムセクションの呼吸も抜群。
3. Look What I Got
陽気でソウルフルなロックンロール。
喜びと自己肯定感が歌詞と演奏の両方に現れており、ハッピーなグルーヴが印象的。
Wet Willieのポジティブな一面が表れている楽曲である。
4. Stop and Take a Look
ミッドテンポのグルーヴィーな楽曲で、オルガンのコードとタイトなリズムが心地よい。
“立ち止まって周囲を見渡せ”というメッセージは、都市生活や人間関係に疲れたリスナーの心に染み込む。
5. Trust in the Lord
ゴスペル色の強いスピリチュアル・ナンバー。
ジミー・ホールの敬虔で熱い歌唱と、バンド全体によるコーラスが高揚感を生み出す。
本作の宗教的・精神的なハイライト。
6. Fool on You
タイトル通りの“失恋”をテーマにしたブルース・ロック。
シンプルながらソウルの香りも漂い、情感豊かなヴォーカルとギターの絡みが見事。
7. Lucy Was in Trouble
軽快でファンキーなリズムが印象的な、語り口調のストーリーテリング・ソング。
“ルーシーが問題を起こした”という軽妙なテーマに、ウィットと音楽的熱が込められている。
8. It’s All Over
哀愁のあるバラードで、アルバム終盤のクールダウン的役割を果たす。
別れの予感とともに鳴るハーモニカとオルガンが心に染みる。
9. It’s Gonna Be Better
アルバムのクロージングを飾る、希望に満ちたゴスペル・テイストのロックナンバー。
“きっと良くなるさ”というリフレインは、聴く者に前向きな感情を与えてくれる。
最後を明るく締めくくるにふさわしい楽曲。
総評
『Wet Willie’s Second Album』は、バンドがブルースやロックの枠を超え、R&Bやゴスペルの本質的なフィーリングを吸収し、そこにサザン・ロック特有の熱気を融合させた作品である。
ジミー・ホールの歌声は力強さと優しさを兼ね備え、バンドのアンサンブルもコンパクトでありながら生々しく、南部音楽の多様性を高いレベルで体現している。
本作を聴けば、Wet Willieが単なるオールマン系ジャム・ロックの亜流ではなく、より“人間臭く、身体性のあるロック”を鳴らすバンドであることが明確に伝わるだろう。
また、アルバム全体に流れる“日常と信仰、悲しみと希望の間にある音楽”というテーマは、サザン・ソウル/ロックの根底にあるスピリットそのものでもある。
おすすめアルバム(5枚)
- Delaney & Bonnie – To Bonnie from Delaney (1970)
ゴスペルとスワンプの融合。Wet Willieの精神性と演奏の温度に近い。 - Otis Redding – The Dock of the Bay (1968)
ソウルの原点的名盤。Wet Willieが継承する“歌”の核心がここにある。 - Allman Brothers Band – Idlewild South (1970)
サザンロックの定番。Wet Willieとは異なるジャム色との対比が興味深い。 - Little Feat – Sailin’ Shoes (1972)
ファンクとルーツロックの洗練。Wet Willieの軽快さと共鳴。 - The Band – Stage Fright (1970)
アメリカ音楽の混血性と内省を示す名盤。Wet Willieの叙情性とリンクする。
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