発売日: 1973年7月
ジャンル: プログレッシブ・ロック、ハードロック、アートロック
概要
『Styx II』は、アメリカのロックバンドStyxが1973年に発表したセカンド・アルバムであり、バンドの初期のプログレッシブ・ロック色とキャッチーなポップ・センスが融合した過渡期の重要作である。
本作は、デニス・デ・ヤングのソングライターとしての台頭を象徴する作品であり、のちにバンドの代表曲となる「Lady」が初収録された点でも特筆すべき位置を占めている。
バンドはこの時期、シカゴのウッドロフ高校出身のメンバーで構成されており、音楽性としては英国プログレッシブ・ロックの影響を色濃く受けつつも、アメリカ的なメロディ重視のスタイルを模索していた。
Styxにとってはメジャー成功への足がかりともいえる作品であり、1975年になってから「Lady」が全米チャートでブレイクしたことにより、再評価される運命をたどることになる。
文化的には、アメリカにおけるプログレッシブ・ロックの消化と再構築を示す一例であり、Emerson, Lake & PalmerやYes、さらにはThe Moody Bluesの流れを意識しながらも、よりポップでダイナミックな楽曲構成が光る作品である。
全曲レビュー
1. You Need Love
オープニングを飾るハードロック・チューン。
ギターリフ主体のドライヴ感ある展開で、Tommy Shaw加入前のStyxらしいラフなエネルギーが充満している。
愛の渇望を歌う歌詞は直接的ながら、コーラスの多声ハーモニーによってドラマティックな印象が加わる。
2. Lady
バンドの初ヒット曲にして、デニス・デ・ヤング作のバラードの原型。
クラシカルなピアノ・イントロから始まり、エモーショナルに盛り上がる構成はのちのStyxの様式を先取りしている。
“Lady”という言葉の繰り返しが印象的で、献身的な愛の表現として時代を超えて共感を呼ぶ一曲である。
3. A Day
10分超の大作で、本作における最もプログレッシブな楽曲。
幻想的なオルガン、テンポの転調、メロトロンの使用など、英国プログレに倣った実験的な構成が展開される。
歌詞は“1日の中の感情の流転”をテーマにしており、内省的な視点が際立つ。
4. You Better Ask
テンポの速いアコースティック・ロックナンバー。
語りかけるようなボーカルと、乾いたギター・サウンドが70年代初頭のアメリカン・フォークロックの影響を感じさせる。
人生の選択と疑念を主題とした歌詞も印象深い。
5. Little Fugue in “G”
J.S.バッハの「フーガ ト短調」をロック編成で再構築したインストゥルメンタル。
クラシックとロックの融合という当時のトレンドを象徴するトラックで、技巧的な演奏がStyxの実力を示している。
6. Father O.S.A.
宗教的テーマを扱った荘厳な楽曲。
“Father O.S.A.”とは、デニスが通っていたオーガスチノ会神学校の神父を指すとされる。
ゴスペル風のハーモニーとロック・オルガンの融合が特徴的で、個人の信仰と葛藤を描く抒情的な世界観が展開される。
7. Earl of Roseland
タイトルの“Roseland”はシカゴのダンスホールに由来する可能性が高い。
古き良きアメリカン・スウィングの雰囲気と、サイケデリックなサウンドの折衷がユニークであり、ノスタルジックな響きを持つ。
8. I’m Gonna Make You Feel It
本作の締めくくりを飾るソウルフルなロック・チューン。
ブラス風のキーボード、ファルセット気味のボーカルなど、モータウン的な影響が垣間見える楽曲である。
Styxの黒人音楽への憧れと実験精神がにじむ興味深いラストである。
総評
『Styx II』は、バンドの初期における音楽的探究とジャンル横断的なアプローチが詰まった作品である。
まだ商業的な成功を収める前の、自由で野心的な姿勢が各曲に刻まれており、特に「Lady」の存在によってその価値が現在では再評価されている。
プログレッシブ・ロックの重厚さと、アメリカ的なポップ・センスの融合。
その中間にある独自のサウンドを、Styxはここで初めて確立しようとしていたようにも思える。
アルバム全体には一貫したコンセプトは見られないものの、それぞれの曲が異なる音楽的方向性を持ちながらも、「探求」というキーワードで統一されている。
ファンにとっては過渡期のドキュメントであり、音楽的には多面的な魅力を持つこの作品。
初期のStyxを知るうえで不可欠な1枚であるといえるだろう。
おすすめアルバム(5枚)
- Kansas – Leftoverture (1976)
アメリカン・プログレを代表する作品であり、Styxと同じくクラシカルな要素とロックの融合が魅力。 - Queen – Queen II (1974)
複雑なアレンジと演劇的なボーカルで構成されたロック・オペラ的作品。初期Styxと共通する美学がある。 - Emerson, Lake & Palmer – Trilogy (1972)
クラシック音楽の影響と技巧的演奏という観点で『Styx II』と親和性が高い。 - The Moody Blues – A Question of Balance (1970)
ロックと叙情詩的表現の融合。宗教的・哲学的なテーマもStyxとの共通点。 - Boston – Boston (1976)
Styxの後期に通じるアメリカン・ロックの完成形。メロディ重視のロックを好むリスナーに最適。
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