イギリス・スウィンドンを拠点に結成され、1970年代後半から活動を本格化させたXTCは、ニュー・ウェーヴの一角を担いながらも、
ポップで芸術性に富んだ作品を次々に生み出したバンドとして知られている。
アンディ・パートリッジ（ギター／ボーカル）とコリン・モールディング（ベース／ボーカル）を中心に、さまざまな編成や実験を経ながらも、
美しいメロディと独特のサイケデリック・ポップ感覚を追求し、数多くのミュージシャンに影響を与えてきた。
結成と初期ニュー・ウェーヴの潮流
- 結成と背景 1970年代半ば、アンディ・パートリッジが率いるバンドを前身に、コリン・モールディング、テリー・チェンバーズ（ドラム）らが参加し、 ニュー・ウェーヴ勃興期のイギリス音楽シーンで徐々に注目を集め始めた。 初期はパンク／ポストパンクの流れを汲みつつ、キーボードを導入したアグレッシブなポップサウンドが大きな魅力だった。
- 音楽性の特徴（初期） スピーディーなリズムにギター、キーボードが交錯するニュー・ウェーヴらしいスタイルを軸とし、そこへアンディとコリンが捻り出すユーモラスかつ皮肉的な歌詞が乗る。 その一方で、初期から彼らならではのメロディセンスが存在感を放っており、単なるパンクフォロワーに留まらないバンドとして評価されていた。
- 代表曲／アルバム（初期） デビューアルバム『White Music』（1978年）はポップ寄りのニュー・ウェーヴ色が全面に出ており、 続く『Drums and Wires』（1979年）では「Making Plans for Nigel」がチャートヒットとなるなど、バンドの名を広める。
ポップ×アートへの深化
- 転機 バリー・アンドリュース（キーボード）離脱後、ギタリストのデイヴ・グレゴリーが加わったことで、 XTCはよりギター中心のサウンドへシフトし、アートポップやサイケデリック的要素を深く追求していくようになる。 アンディ・パートリッジのパニック障害によるライヴ活動停止もあり、彼らはスタジオ制作に専念する道を選んだ。
- 音楽性の特徴（中期〜後期） ややサイケデリックなコード進行やビートルズ的コーラスワークの影響を色濃く取り入れつつ、 リリック面では社会風刺や個人の苦悩を織り交ぜた知的・文学的スタイルを確立。 スタジオでの凝りに凝ったアレンジによって、ポップかつ実験的な“XTCサウンド”が完成した。
- 代表作
- 『English Settlement』（1982年）：アコースティック・ギターを積極的に取り入れ、英国内での人気を不動に。
- 『Skylarking』（1986年）：トッド・ラングレンがプロデュースを担当し、コンセプト色のある統一感が高評価。 シングル「Dear God」などが話題に。
- 『Oranges & Lemons』（1989年）：サイケデリックでカラフルなサウンドが印象的。
- 『Nonsuch』（1992年）：バンドとしての円熟味が詰まった作品。 英国的な風情とポップアート的センスが見事に融合している。
個性と内紛の狭間で
- ライヴ活動停止 アンディ・パートリッジのステージ恐怖症が深刻化したことで、XTCは1982年以降実質的にライヴを行わない形となった。 これによりスタジオワークへの依存度が高まったが、より完成度の高い作品を作り上げる反面、商業的には伸び悩む面もあった。
- レーベルとの確執 レーベルとの契約問題が長期化し、バンドは活動の遅延を余儀なくされたり、ロイヤルティの問題で苦しむなど波乱も多かった。 それでもコンスタントにアルバムをリリースすることで、根強いファン層を維持した。
後世への影響
- ポップ×アートのモデル XTCの楽曲は、ポップでありながら一筋縄ではいかないコード進行やリリックを内包し、これは後のブリットポップ勢（ブラーやオアシスなど）やパワーポップ系バンドに大きな影響を与えた。 音楽批評家からは、ビートルズ的なメロディ作りを継承しながらニュー・ウェーヴとして進化させた代表例として高く評価される。
- “架空バンド”による多面性 1980年代後半からアンディ・パートリッジとコリン・モールディングが“デュークス・オブ・ストラトスフィア”という架空バンド名義で、 1960年代のサイケデリック風の楽曲を制作したプロジェクトも、のちのサイケ・リバイバルに一石を投じた。
主なエピソード・逸話
- トッド・ラングレンとの衝突 『Skylarking』の制作時には、プロデューサーのトッド・ラングレンとアンディ・パートリッジが意見の対立を起こしながらも、 結果的にバンドの代表作と呼ばれる傑作を完成させた。 後年には互いの才能をリスペクトしつつも、“制作中はかなり激しいやり取りがあった”と述懐している。
- “Dear God”のシングル発売と騒動 『Skylarking』に当初未収録だった「Dear God」がシングルB面に収録されると、反宗教的な内容が一部で問題視され話題に。 しかしリスナーの反響が大きく、後の再発盤では正式にアルバムに組み込まれた。
まとめ――知的なポップセンスと芸術性の見事な融合
XTCはニュー・ウェーヴの枠を飛び越え、ポップの要素と実験精神を同居させる稀有なバンドである。
メンバー間の葛藤やライヴ活動の停止、レーベルとの軋轢など、試練も多かったが、スタジオワーク中心に残してきたアルバム群は、
「グレイトフルなビートルズ・フォロワーかつ独自のサイケ・アートポップ」的な評価を得ている。
代表作『Drums and Wires』や『Skylarking』などを聞いてみれば、耳に残るメロディと奥深いリリック、そして洗練されたサウンドが一体となって、
XTCがいかに時代を先取りしたポップクリエイターであるかを痛感させてくれる。
ライブ活動から距離を置くという選択も、彼らのスタジオ中心の音楽制作をきわめる一つの手法だったのだろう。
もしXTCを未聴であれば、ぜひ彼らのアルバムを通じて、イギリス・ニュー・ウェーヴ屈指のアートポップが持つ繊細でカラフルな音世界に浸ってみてほしい。
そこには“ポップが到達しうる最高峰の一つ”とも評される、XTCならではの不思議な魔力が満ちている。
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