
1. 歌詞の概要
「Wide Awake」は、Parquet Courts(パーケイ・コーツ)が2018年にリリースしたアルバム『Wide Awake!』のタイトル・トラックであり、彼らの代表曲のひとつとして高く評価されている政治的メッセージとダンサブルなファンクビートが融合したエネルギッシュな楽曲です。
タイトルが示す通り、「Wide Awake(目が冴えている)」というフレーズは、物理的な眠りの意味だけでなく、社会的・政治的に“目を覚ました”状態を意味しています。つまりこれは、周囲の不正義や腐敗、麻痺した感性に対して、「私は見ている」「私は眠らない」と宣言する覚醒の歌なのです。
歌詞は一見シンプルで反復が多いように見えますが、その中には怒りと希望、無力感と連帯、そして“行動すること”の意義が詰め込まれており、バンドがパンク的精神を現代的にアップデートした姿勢が明確に示されています。
2. 歌詞のバックグラウンド
Parquet Courtsは、2010年にニューヨークで結成されたバンドで、DIYパンクやアート・ロックの系譜を継承しながら、鋭い社会批評と哲学的なリリックを武器に人気を集めてきました。「Wide Awake」は、その集大成とも言えるアルバム『Wide Awake!』からのタイトル曲であり、プロデューサーには**Danger Mouse(ブライアン・バートン)**を起用。これにより彼らのサウンドはよりリズミカルかつ洗練され、ファンク、ダブ、ダンス・パンクの要素が色濃く反映されることになりました。
この曲の誕生には、2010年代後半のアメリカの社会情勢――特にトランプ政権下での政治分断、差別、不平等に対する怒りと失望――が大きく影響しています。フロントマンのAndrew Savageはインタビューで、「“怒っている”ことを、ただの怒鳴り声やノイズではなく、“踊ること”で表現したかった」と語っており、ダンス・ミュージックの形式を用いた政治的メッセージの発信という試みに挑んだ楽曲だと言えます。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius – Parquet Courts / Wide Awake
“I’m wide awake / Mind so woke ‘cause my brain never pushed the brakes”
「俺は目が冴えてる/思考は止まらない、ブレーキなんて踏んじゃいない」
“I’m wide awake / On the edge and wide awake”
「俺は完全に目覚めてる/ギリギリの境界で目を開いてるんだ」
“I’m wide awake / But I’m not sleeping”
「目は覚めてる/でも、眠りに逃げたりしない」
“Collectivism and autonomy / Are not mutually exclusive”
「集団主義と個人の自立は/相反するものじゃない」
“If you’re not dead / Then smile, they’re not mutually exclusive”
「もし死んでないなら笑ってみな/それだって矛盾しない」
これらのリリックには、**“覚醒している”ことが苦痛であっても、それが希望であり行動の源泉だ”**という、メッセージ性の強い言葉が詰まっています。特に、“集団と個人の共存”や“怒りと喜びの共存”という視点は、単純な政治的プロテストとは異なる深みを持っています。
4. 歌詞の考察
「Wide Awake」は、政治的怒りや社会的不正義へのフラストレーションを、「踊ること」で表現するという非常に現代的な方法論を取った楽曲です。怒りを叫ぶのではなく、それをグルーヴに変えて他者と共有する。それはまさに、パンクとダンス・ミュージックの美学的融合といえるでしょう。
「私は眠っていない、だから苦しんでいる。けれど目を開いているからこそ、真実が見える」――この曲の本質はそこにあります。盲目的な暴力でもなく、無関心でもなく、痛みを伴った“意識”こそが、今の時代に必要だとParquet Courtsは訴えています。
また、「Collectivism and autonomy are not mutually exclusive」という一節は、近代的な“個人主義”と“連帯”が矛盾するものでないという、非常に現代的でラディカルな思想を示唆しています。つまりこの曲は、ただのプロテスト・ソングではなく、新しい人間関係と社会の形を模索する、思想的な作品でもあるのです。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Born Under Punches” by Talking Heads
不条理な社会と個人の分断を、ファンクとポストパンクで描いた傑作。 - “Dance Yrself Clean” by LCD Soundsystem
感情と知性が爆発する、ミニマルダンスとポストパンクの融合。 - “Savage” by IDLES
怒りと連帯の両立を高らかに歌う現代のパンクアンセム。 - “Free Your Mind” by Funkadelic
社会的意識とダンス・グルーヴの共存という発想の原点的楽曲。 - “The Overload” by Yard Act
皮肉と政治批判をエネルギッシュなダンスパンクで包んだ新鋭曲。
6. “踊る覚醒”という新しいプロテストの形
「Wide Awake」は、意識とエネルギー、怒りと喜び、個人と集団をすべて同時に引き受けた現代のプロテスト・ソングです。
パンク的な精神を宿しながらも、ただ叫ぶのではなく、“踊りながら目覚めていること”を選んだこの曲は、新しい時代の行動様式を示唆しているとも言えるでしょう。
社会の矛盾に気づきながらも、それに飲み込まれず、音楽という身体的手段を通じて“自分自身”と“他者”の両方を救う――そのためのヒントが、「Wide Awake」には詰まっています。
「Wide Awake」は、“目覚めた人間”が選ぶべき新しいダンス・アンセム。Parquet Courtsが放つのは、怒りを叫ぶのではなく、希望をグルーヴに変えてシェアする、覚醒のビートである。
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