
1. 歌詞の概要
「Turn It On Again」はGenesisが1980年に発表したアルバム『Duke』に収録された楽曲であり、シングルとしてもリリースされ全英8位を記録した。Genesisにとって80年代の幕開けを象徴する一曲であり、プログレッシブな要素とポップな即効性を融合させた作品として知られている。
歌詞は孤独な主人公がテレビに没入し、そこに映る人物や物語を現実の人間関係の代替として受け止めている様子を描いている。現実世界では誰かと深く関わることができず、代わりに「画面の向こう側」と交流している錯覚に陥る姿は、メディアに支配された現代人の孤独を予言するようでもある。主人公は「Turn it on again(もう一度電源を入れてくれ)」と繰り返し求め、画面に依存する生活から抜け出せなくなっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Duke』はGenesisがプログレッシブ・ロックからよりポップな方向へシフトしていく中で制作されたアルバムであり、その過渡期を象徴する作品とされる。Peter Gabriel脱退後、Phil Collinsがヴォーカルを務める新体制はすでに定着していたが、この頃のGenesisは「複雑さとキャッチーさの両立」を模索していた。
「Turn It On Again」はもともと「Duke Suite」と呼ばれる組曲の一部として構想された楽曲だった。アルバム制作段階で組曲は分割されたが、その中でも特にポップ性とエネルギーを持つ部分がこの曲として完成した。
音楽的には一見シンプルなロック・ナンバーに聞こえるが、実際には変拍子(13/8や9/8など)を多用しており、リスナーに独特の緊張感を与える。この「奇数拍子を使ったポップ・ソング」という点こそ、Genesisが持つプログレッシブな知性とポップへの親和性の融合を示している。
ライブにおいても「Turn It On Again」は重要な位置を占め、80年代以降はエンディング近くに演奏される定番曲となった。観客の手拍子や掛け声を誘うことで、Genesisのコンサートに欠かせないアンセムとなっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Turn It On Again」の印象的な部分を抜粋し、英語歌詞と和訳を併記する。
(歌詞引用:Genius)
I can show you, I can show you
Some of the people in my life
君に見せてあげよう
僕の人生に登場する人々を
It’s driving me mad just another way of passing the day
それは僕を狂わせるけれど、ただ一日を過ごす別の方法にすぎない
All I need is a TV show
All I want is the radio
僕に必要なのはテレビ番組だけ
欲しいのはラジオだけ
I, I get so lonely when she’s not there
彼女がいないと、とても孤独なんだ
Turn it on, turn it on again
電源を入れてくれ、もう一度入れてくれ
孤独を埋めるためにテレビやラジオに没入する姿がストレートに描かれている。「Turn it on again」というフレーズは依存の象徴であり、現実逃避のサイクルを示している。
4. 歌詞の考察
この楽曲は、現代社会における「メディア依存」を象徴的に描いた作品である。主人公は人間的な交流を持たないまま、テレビやラジオを「仲間」と錯覚し、その存在に安らぎを求めている。これは1980年当時のテレビ文化の浸透を背景としつつ、インターネットやスマートフォンが支配する現代社会においてもなお強烈に共鳴するテーマである。
「彼女がいないと孤独だ」という一節は、人間関係の欠落を暗示している。主人公が求めているのは本当は「生身の他者との関係」なのだが、それをテレビやラジオに置き換えてしまうことで、孤独から逃れつつも決して満たされない空虚さを抱えている。
音楽的には、ポップなキャッチーさを持ちながらも複雑な変拍子を導入しており、この「違和感」自体が歌詞のテーマを反映しているように思える。一見心地よい娯楽(ポップなメロディ)に見えながら、その下には歪さ(変拍子)が潜んでいるのだ。
「Turn it on again」という依存的なフレーズの繰り返しは、自己を救うどころかますます深い孤独へと引き込む螺旋を描いている。Genesisはこのシンプルなポップ・ソングを通じて、現代人の孤立とメディア依存を風刺的に表現しているのである。
(歌詞引用:Genius)
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Misunderstanding by Genesis
同じ『Duke』収録で、より直接的なポップ性と孤独感を描いた楽曲。 - Abacab by Genesis
80年代Genesisの方向性を示す代表曲で、ポップと実験性の融合が際立つ。 - Games Without Frontiers by Peter Gabriel
テレビ文化と大衆社会を風刺する点で「Turn It On Again」と通じる。 - Owner of a Lonely Heart by Yes
プログレ・バンドがポップ・ソングで成功した代表例であり、テーマ的にも孤独感が共通する。 - Everybody Wants to Rule the World by Tears for Fears
80年代的な孤独とメディア社会の象徴性を歌った楽曲。
6. Genesisにとっての意義
「Turn It On Again」は、Genesisが80年代に大衆的な成功を収めるための扉を開いた曲であった。プログレ的要素を維持しながらも、シングル曲として親しみやすいキャッチーさを備え、彼らを「スタジアムを埋めるバンド」へと押し上げるきっかけとなった。
ライブではアンコールの定番曲として愛され、観客を巻き込むエネルギッシュな瞬間を演出する。Genesisのポップ時代の幕開けを告げると同時に、彼らのプログレ的知性を内包した名曲であり、今なおその意義は失われていない。
「Turn It On Again」は、孤独な人間がメディアに依存する姿を描きながらも、Genesis自身が「時代のスイッチを入れた」瞬間を象徴する、記念碑的な楽曲なのである。



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