発売日: 2007年6月29日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、アート・ポップ、フォーク・ポップ
再結成したCrowded Houseが2007年に発表したTime on Earthは、バンドにとって新たな章の始まりを告げるアルバムであり、過去の成功に続く挑戦的な作品でもある。本作は、ドラマーのポール・ヘスターの突然の死による喪失感が影を落とし、深い内省と感情的な重みが楽曲全体を貫いている。当初、ニール・フィンのソロプロジェクトとして構想されていたが、ベーシストのニック・シーモアの参加をきっかけに、再びCrowded House名義での制作が進められた。
プロデューサーには、Ethan JohnsやSteve Lillywhiteといった名プロデューサーが名を連ね、クラシックなCrowded Houseのメロディ感覚と、よりフォークやアコースティックに寄った新しいサウンドの融合が図られている。本作は、ポップ・ロックとしての明快さと、人生や喪失についての深遠なメッセージを兼ね備えた作品となった。「Don’t Stop Now」や「Pour le Monde」といったシングル曲に加え、アルバム全体にわたる静謐な美しさと温かみが特徴的だ。
トラックごとの解説
1. Nobody Wants To
静かで控えめなイントロが特徴の一曲。孤独や喪失感をテーマにした歌詞が深く心に響く。ニール・フィンの繊細なボーカルが曲全体を支え、シンプルなアレンジが歌詞の感情を際立たせている。
2. Don’t Stop Now
軽快なギターポップで、アルバムの中でもキャッチーな楽曲。ニールがニュージーランドでの自動車運転中に迷った経験から生まれた歌詞が、人生の不確実性を象徴的に描いている。爽やかなメロディが耳に残り、アルバムのエネルギーを高める。
3. She Called Up
軽やかなビートとポップなメロディが特徴的な楽曲。しかし、歌詞にはヘスターの死を暗示するような喪失のテーマが込められており、明るいサウンドとの対比が印象的だ。
4. Say That Again
アコースティックギターが支えるミッドテンポのバラードで、親密な雰囲気を醸し出す。歌詞は関係性の微妙なニュアンスや、言葉にできない感情を探るものとなっている。
5. Pour le Monde
政治的なメッセージと普遍的な希望を歌った壮大なバラード。フランス語のタイトル(「世界のために」という意味)が示す通り、普遍的な連帯感と平和をテーマにしている。ニール・フィンの情感豊かなボーカルが際立つ一曲。
6. Even a Child
ジョニー・マール(元ザ・スミス)のギタープレイが光る軽快なロックナンバー。リズム感のある演奏が楽曲に生命を吹き込み、歌詞には成長や未来への希望が込められている。
7. Heaven That I’m Making
静かなイントロから徐々に展開する楽曲で、愛や未来への願望が歌われる。シンプルなコード進行と柔らかなアレンジが、楽曲の親しみやすさを引き立てている。
8. A Sigh
叙情的な楽曲で、ゆったりとしたテンポが心に残る。歌詞には、ヘスターを失った悲しみが静かに表現されているように感じられる。
9. Silent House
ディクシー・チックスとの共作で、失ったものへの追憶と再生の希望を描いた曲。シンプルながらも重厚なアレンジが心に響き、感情を揺さぶる一曲。
10. English Trees
自然と人間の関係を描いた美しいバラード。アコースティックギターとニールの柔らかい声が一体となり、優しいメロディが心に残る。
11. Walked Her Way Down
リズム感のあるビートが特徴的な楽曲。前向きなメッセージが歌詞に込められており、アルバム全体の中で軽快なアクセントとなっている。
12. Transit Lounge
異国の空港を舞台に、疎外感や孤独をテーマにした楽曲。女性ボーカルが加わり、幻想的な雰囲気を生み出している。トライバルなリズムとシンセサウンドが印象的。
13. You Are the One to Make Me Cry
繊細で感情的なバラード。ニールの歌声が曲全体を支え、深い感動を呼び起こす。タイトル通り、心の痛みと愛の複雑さが歌われている。
14. People Are Like Suns
アルバムのエンディングにふさわしい壮大で美しい楽曲。静かなピアノとオーケストラのアレンジが重なり合い、深い余韻を残す。人生の儚さと希望を象徴するような詩的な歌詞が印象的だ。
アルバム総評
Time on Earthは、喪失感と再生、そして人生の不確実性をテーマにした、感情的に豊かなアルバムだ。Crowded Houseの音楽的な進化と成熟を示しつつも、彼らの魅力であるキャッチーなメロディは健在である。特に「Pour le Monde」や「Distant Sun」のような楽曲は、静かな感動と普遍的なメッセージをリスナーに届けてくれる。バンドにとっての再出発となったこのアルバムは、過去を振り返りつつも前を向く力を感じさせる一作であり、聴く人々に深い癒しを提供している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Automatic for the People by R.E.M.
内省的で感情豊かなテーマが共通する。特に人生や喪失感について考えさせられるアルバム。
Sea Change by Beck
フォークとアコースティックを基調にした内省的なアルバム。静かな美しさがTime on Earthと響き合う。
Ghost Stories by Coldplay
失恋や喪失をテーマにしたメランコリックなアルバムで、感情を呼び起こす楽曲が満載。
Out of Time by R.E.M.
フォーク・ポップとオルタナティブ・ロックの融合が、Time on Earthのファンに共通点を感じさせる。
Graceland by Paul Simon
アコースティックなサウンドと深みのある歌詞が魅力的。普遍的なメッセージ性がTime on Earthと共鳴する。
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