
発売日: 1975年6月26日(録音: 1967年)
ジャンル: フォークロック、ルーツロック、アメリカーナ
- 伝説の地下録音——アメリカ音楽の深層を掘り起こした名盤
- 全曲レビュー(主な楽曲ピックアップ)
- 1. Odds and Ends
- 2. Orange Juice Blues (Blues for Breakfast) – The Band
- 3. Million Dollar Bash
- 4. Yazoo Street Scandal – The Band
- 5. Goin’ to Acapulco
- 6. Katie’s Been Gone – The Band
- 7. Lo and Behold!
- 8. Bessie Smith – The Band
- 9. Clothes Line Saga
- 10. Apple Suckling Tree
- 11. Please, Mrs. Henry
- 12. Tears of Rage
- 13. Too Much of Nothing
- 14. Yea! Heavy and a Bottle of Bread
- 15. Ain’t No More Cane – The Band
- 16. Don’t Ya Tell Henry – The Band
- 17. Nothing Was Delivered
- 総評
- このアルバムが好きな人におすすめの5枚
伝説の地下録音——アメリカ音楽の深層を掘り起こした名盤
1975年にリリースされた**『The Basement Tapes』**は、ボブ・ディランとザ・バンド(The Band)が1967年にウッドストックの地下室で録音した音源を収めた作品である。
この録音は、ディランが1966年にオートバイ事故で活動を一時休止した後、自宅のあるウッドストックで静養していた際に、当時「The Hawks」として彼のバックバンドを務めていたザ・バンドのメンバーと共に行われたものだった。1965〜66年のエレクトリック・ツアーでディランの音楽は過激なロックサウンドへとシフトしていたが、本作ではよりリラックスし、アメリカン・フォーク、カントリー、ブルースのルーツに立ち返ったサウンドが展開されている。
1967年の録音当時、この音源は公式にはリリースされず、ブートレグとして広まり、その影響は計り知れなかった。特に1969年にザ・バンドがリリースした『Music from Big Pink』や、のちのアメリカーナ音楽のムーブメントに多大な影響を与えた。そして、ようやく1975年に公式リリースされたのがこの『The Basement Tapes』である。
全曲レビュー(主な楽曲ピックアップ)
1. Odds and Ends
カジュアルで楽しいオープニング。歌詞はナンセンスなフレーズの羅列だが、ディラン特有のウィットに富んでいる。リラックスした演奏がアルバム全体の雰囲気を象徴している。
2. Orange Juice Blues (Blues for Breakfast) – The Band
リチャード・マニュエルがリードボーカルを務める、ジャジーな雰囲気の楽曲。ディランの影響を受けながらも、ザ・バンド独自のサウンドを感じさせる。
3. Million Dollar Bash
ウキウキするような楽曲で、ディランのボーカルが楽しげに響く。シンプルなコード進行に乗せたカントリー調のメロディが心地よい。
4. Yazoo Street Scandal – The Band
ザ・バンドによる荒々しいブルースロックナンバー。ロビー・ロバートソンのギターとリヴォン・ヘルムのドラムが特徴的。
5. Goin’ to Acapulco
スローでメランコリックなバラード。ディランのボーカルがどこか哀愁を帯びており、アメリカ南部の風景が目に浮かぶような雰囲気を持つ。
6. Katie’s Been Gone – The Band
ロビー・ロバートソン作の楽曲で、リチャード・マニュエルのソウルフルな歌声が印象的。メロディアスで情熱的なバラード。
7. Lo and Behold!
ユーモアの効いた歌詞と、ゆったりとしたテンポが特徴的。ディランの歌詞の意味を深読みする楽しさがある。
8. Bessie Smith – The Band
リヴォン・ヘルムのボーカルが光る楽曲。ブルースシンガーのベッシー・スミスをテーマにした曲で、オールドタイムな雰囲気が漂う。
9. Clothes Line Saga
のちの「トーキング・ブルース」的なスタイルを予感させる曲。淡々とした語り口が特徴で、シニカルなユーモアが込められている。
10. Apple Suckling Tree
ラフなアレンジとカントリー調のメロディが印象的。歌詞は意味があるようでいて、実はかなりナンセンス。
11. Please, Mrs. Henry
ディランが酔っ払いのような声で歌うユーモラスな楽曲。シンプルなロックンロールの楽しさが詰まっている。
12. Tears of Rage
リチャード・マニュエルが歌う、美しくも悲痛なバラード。のちにザ・バンドのアルバム『Music from Big Pink』にも収録された。
13. Too Much of Nothing
美しいコーラスとメロディが特徴的な曲で、ディランのソングライティングの繊細さが際立つ。
14. Yea! Heavy and a Bottle of Bread
不条理な歌詞と軽快なリズムが楽しい。ディラン特有のシュールなナンバー。
15. Ain’t No More Cane – The Band
伝統的なアメリカン・フォークソングをザ・バンド流にアレンジした楽曲。彼らのルーツ志向が色濃く出ている。
16. Don’t Ya Tell Henry – The Band
リヴォン・ヘルムのボーカルが光るニューオーリンズ風のブルースロック。
17. Nothing Was Delivered
アルバムの最後を飾る楽曲で、ディランの独特の語り口が印象的。
総評
『The Basement Tapes』は、ロックが巨大なビジネスとなりつつあった1967年に、ディランとザ・バンドが原点回帰を試みた結果生まれた作品である。
そのラフで即興的な演奏スタイルは、のちのアメリカーナやルーツロックの基盤となり、ウィルコ、ザ・ホワイト・ストライプス、アヴェット・ブラザーズといった現代のアーティストにも影響を与えた。また、ザ・バンドがこの後にリリースする『Music from Big Pink』(1968年)の方向性を決定づけることにもなった。
このアルバムは、単なるアウトテイク集ではなく、アメリカ音楽の歴史に根ざした、豊かな文化的背景を持つ作品であり、60年代のロックの流れを変えた重要な一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- The Band – Music from Big Pink(1968年)
『The Basement Tapes』と密接に関連する作品。 - Bob Dylan – John Wesley Harding(1967年)
同じ時期に録音され、ディランのルーツ回帰が顕著なアルバム。 - Neil Young – Harvest(1972年)
アメリカーナ・フォークロックの代表作。 - Grateful Dead – Workingman’s Dead(1970年)
ルーツロックとカントリーの融合を聴くなら。 - The Byrds – Sweetheart of the Rodeo(1968年)
カントリーロックの金字塔。
『The Basement Tapes』は、ロックがルーツに回帰した瞬間を捉えた、歴史的な作品である。
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