
発売日: 1975年11月
ジャンル: ルーツ・ロック、アメリカーナ、フォークロック、ソウル
概要
『Northern Lights – Southern Cross』は、The Band が1975年に発表した7作目のスタジオアルバムであり、
70年代後期のバンドの創造力が最も輝いた作品 として高く評価されている。
1960年代末〜70年代初頭、The Band はアメリカ音楽の象徴的存在となったが、
名声の重圧、ツアー疲れ、内部摩擦、ドラッグ問題などによって徐々に消耗していった。
1973年『Moondog Matinee』はカバー中心の“原点回帰”の作品だったが、
その後は創作意欲が再び燃え上がり、
Robbie Robertson のソングライティングはここで新たなピークへ到達する。
本作は、すべての楽曲を The Band 自身が作曲・演奏した完全オリジナル作品であり、
かつ1970年代アメリカの広大な風景、歴史、魂が凝縮されたアルバム といえる。
録音は、彼らが所有するスタジオ “Shangri-La Studios” を中心に行われ、
Garth Hudson のシンセサイザーを含む多彩な鍵盤アレンジが大きく前面に出ている。
The Band の音楽に新しい色彩を与え、
“古きアメリカの香り × 70年代の新しいサウンド”
という絶妙なバランスが実現した。
結果として、『Northern Lights – Southern Cross』は、
ルーツ音楽の深い敬意を保ちながら、新時代の音楽的装飾を鮮やかに融合させた、
The Band の後期代表作 に仕上がった。
全曲レビュー
1曲目:Forbidden Fruit
スライドギターとリズムが心地よい、温かいルーツロック。
“禁断の果実”という比喩が示す誘惑と快楽を、軽やかさの裏側に潜ませた、The Band らしい物語的楽曲。
Rick Danko の歌声が優しくも切ない表情を加える。
2曲目:Hobo Jungle
ホームレスの男性の人生を描く内省的なバラード。
Richard Manuel の繊細な歌唱が胸に迫り、アメリカ社会の影の側面を静かに照らし出す。
Garth Hudson のオルガンが哀愁を深め、物語が映像のように展開する。
3曲目:Ophelia
アルバムの代表曲であり、ライブでも愛される定番曲。
跳ねるブラス、軽快なホーンアレンジ、Levon Helm の伸びやかなボーカル。
都会と田舎の境界にあるような“祝祭のエネルギー”を感じる一曲で、The Band の魅力が凝縮されている。
4曲目:Acadian Driftwood
本作最大のハイライトにして、The Band のキャリア全体でも屈指の名曲。
“アケイディア人の追放(Acadian Expulsion)”というカナダ史の悲劇を題材にした壮大なバラード。
Levon、Rick、Richard の3ボーカルが物語の視点を切り替えながら歌い、
クラシックなフォークの叙事詩を現代ロックへと昇華した歴史的傑作。
アメリカーナというジャンルそのものを象徴する存在でもある。
5曲目:Ring Your Bell
軽快でグルーヴィなロックナンバー。
R&B寄りの明るい響きがあり、アルバム中盤の息抜きとして非常に心地よい。
The Band の“遊び心のある側面”が見える。
6曲目:It Makes No Difference
The Band 屈指の悲しいラブバラード。
Rick Danko の感情豊かな歌声が圧倒的で、
喪失、未練、愛情の深さを、胸が締めつけられるような表現で歌い上げる。
Garth Hudson のサックスソロが涙のように流れ、曲を永遠性ある名作へと押し上げている。
The Band のバラードの最高峰と言われることも多い。
7曲目:Jupiter Hollow
幻想的なシンセサウンドが特徴的な、70年代の新しい音楽潮流を反映した曲。
浮遊感が強く、ミステリアスな雰囲気を持つ。
Garth Hudson の鍵盤がアルバムに広い宇宙的スケールをもたらす。
8曲目:Rags & Bones
軽快でストーリー性のあるルーツロックで、アルバムを明るく締めくくる。
人生の雑多な部分をユーモラスに描きつつ温かさを失わない、The Band らしい楽曲。
総評
『Northern Lights – Southern Cross』は、The Band が“アメリカ音楽の語り部”として再び輝いた作品であり、
1970年代後期のルーツ・ロック最高峰のひとつ に位置づけられる。
本作が特別なのは、
- Robbie Robertson のソングライティングが高い水準で復活
- Garth Hudson の鍵盤&シンセアレンジが新風を吹き込む
- 3人のボーカルの個性が完璧に活きている
- 歴史的テーマと個人的感情が巧みに融合している
という点にある。
特に「Acadian Driftwood」と「It Makes No Difference」は、
The Band のキャリアどころか、
アメリカーナ/フォークロック全体の歴史に残る名曲であり、
本作の価値を決定づけている。
『Northern Lights – Southern Cross』は、
初期の神話性とも、後期の疲労とも違う、
“成熟した大人の The Band” を刻んだ美しくバランスの取れた作品であり、
長く聴けば聴くほど深い味わいが染み出す一枚だ。
おすすめアルバム(5枚)
- The Band / The Band (1969)
アメリカーナの金字塔。The Band の原点と神話性がわかる。 - Music from Big Pink / The Band (1968)
ルーツロックの出発点となった必聴作。音楽史的価値が高い。 - Stage Fright / The Band (1970)
内省的テーマが際立つ中期の名盤。本作との対比が興味深い。 - Cahoots / The Band (1971)
本作の前段階にある“揺れる70年代の空気”を知る上で不可欠。 - Moondance / Van Morrison (1970)
アメリカーナ/ソウルの精神性の近さから、世界観を広げてくれる作品。



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