発売日: 1982年
ジャンル: ハードコア・パンク、カウパンク
Meat Puppetsのデビューアルバム『Meat Puppets』は、1982年にリリースされ、アメリカン・ハードコアの中でも異彩を放つ実験的でカオスな作品である。このアルバムは、通常のハードコア・パンクとは異なり、カントリーやサイケデリックな要素を断片的に取り入れたユニークなアプローチを特徴とする。荒々しい音質、予測不能な展開、そしてバンドメンバーの自由奔放な演奏スタイルが、当時のシーンの中で強烈な個性を放った。
バンドは、兄弟であるカート・カークウッド(ボーカル&ギター)とクリス・カークウッド(ベース)、デリック・ボスタロス(ドラム)によって構成されている。デビュー作では特に、全編にわたってスピードとノイズが支配しており、リスナーに混乱と興奮を同時に与える。これはまさに、彼らが意図していた「カウパンク」というサブジャンルの原型とも言える。プロデューサーとしてSpot(Black FlagやMinutemenを手掛けた人物)が参加し、荒削りなエッジをさらに際立たせている。
この作品は、後にNirvanaなど多くのアーティストに影響を与えたバンドの初期形態を記録したものであり、肉体的かつ感情的な衝撃を伴う体験だ。
1. Splendid Isolation
アルバム冒頭を飾る楽曲で、ノイズとスピード感に満ちたインストゥルメンタルが特徴。無秩序なようでいて、ギターのリフにはどこか中毒性があり、一瞬でアルバムの世界観に引き込まれる。
2. My Baby’s Gone
わずか1分足らずの楽曲で、シンプルかつ破壊的なハードコアパンクのエネルギーが炸裂する。歌詞はほぼ聞き取れないほどのスピードだが、その無秩序さこそがMeat Puppetsの魅力を体現している。
3. Love Offering
不協和音のギターと、クリスのゴリゴリしたベースラインが絡み合う楽曲。歌詞は皮肉に満ちたもので、パンクの持つ反抗精神を象徴している。この曲では、演奏の荒々しさが意外な美しさを持つ瞬間も垣間見える。
4. Blue-Green God
中盤のハイライトとも言える一曲。サイケデリックな要素が強く、曲全体に混沌とした雰囲気が漂っている。ドラムのテンポチェンジとギターの不規則なコード進行が、聞く者を混乱と快感の境界へ誘う。
5. Walking Boss
カントリーブルースの影響が色濃く感じられる短いトラック。ハードコアの激しさとカントリーのリズムが奇妙に調和し、ジャンルを越えたMeat Puppetsの個性を示している。
6. Melons Rising
スピードと暴力的な音圧で押し切る楽曲。ギターソロが歪みまくり、カートの叫び声がカオスの中で光る。アルバム中でも特に攻撃性が高い一曲だ。
7. Saturday Morning
わずか38秒の短さだが、疾走感と緊張感が凝縮されている。歌詞は聞き取るのが難しいものの、タイトルの通り、日常の中の非日常を切り取ったような感覚を覚える。
8. Our Friends
ポップでありながらも混沌としたエネルギーを持つ一曲。ギターのリフが特に印象的で、アルバム中でも一瞬だけ肩の力を抜いて楽しめるトラックだ。
9. Tumblin’ Tumbleweeds
アルバムの中で異色のカバー曲で、原曲はカントリースタンダードとして知られる。同曲を、ほぼ原型を留めないノイズとスピードで再解釈している。これこそMeat Puppetsの真骨頂と言えるだろう。
10. Meat Puppets
セルフタイトルのトラックで、バンドのエネルギーとアイデンティティを象徴する曲。叫びとノイズが渦巻く中で、バンドの全てが凝縮されたような感覚を覚える。
アルバム総評
『Meat Puppets』は、単なるハードコア・パンクアルバムではなく、ノイズとスピードの中にカントリーやサイケデリックといった要素を巧妙に織り込んだ異色作である。この作品は、荒削りながらもバンドの無限の可能性を予感させる内容であり、後のカウパンクやオルタナティブロックの礎となった。Meat Puppetsのファンにとってはもちろん、80年代アンダーグラウンドシーンを知る上で欠かせない一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Damaged by Black Flag
同じハードコアシーンに属しながらも、怒りと混沌をエネルギーに変えた名盤。荒々しいサウンドが共通している。
Double Nickels on the Dime by Minutemen
パンクの枠を超えた実験精神が共通する作品。多彩な楽曲展開が楽しめる。
Yip/Jump Music by Daniel Johnston
DIY精神と奇妙なポップセンスが光るアルバム。Meat Puppetsのエッジの効いたユーモアに共鳴する部分が多い。
Psychocandy by The Jesus and Mary Chain
ノイズとメロディの融合が『Meat Puppets』と通じる作品。ローファイな質感も魅力的。
Surfer Rosa by Pixies
アグレッシブなサウンドと実験的な構成が特徴で、Meat Puppetsファンにもおすすめできる一枚。
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