発売日: 1969年12月5日
ジャンル: ロック、ブルースロック、カントリーロック
時代の混沌を映し出す傑作——ローリング・ストーンズが築いたロックの金字塔
1969年、The Rolling Stonesは『Let It Bleed』をリリースし、バンドのキャリアにおける最も重要な時期に到達した。本作は、混迷する時代を映し出した作品であり、ロックンロールの可能性を極限まで押し広げたアルバムである。
このアルバムの制作は、ストーンズにとって大きな転換点だった。創設メンバーであるブライアン・ジョーンズの脱退と死、アメリカでの暴動やベトナム戦争の激化、そしてオルタモント・フリーコンサートでの悲劇——ロックとカウンターカルチャーが持つ光と影の両方が、このアルバムには刻まれている。
音楽的には、ブルース、カントリー、ゴスペル、フォーク、そしてハードロックが融合した作品であり、後の『Sticky Fingers』（1971年）や『Exile on Main St.』（1972年）へと続く、ストーンズの「黄金期」の幕開けを告げるアルバムとなった。
また、本作はミック・テイラーが新たにギタリストとして加入する直前の作品でもあり、主にキース・リチャーズがギターを担当している。そのため、ギター・プレイには彼のラフでブルージーなスタイルが色濃く反映されている。
『Let It Bleed』は、60年代の終焉と70年代の到来を象徴する、ローリング・ストーンズの最高傑作のひとつである。
全曲レビュー
1. Gimme Shelter
アルバムの幕開けを飾る、ロック史に残る名曲。オープニングの不穏なギターリフが、混沌とした時代の空気を完璧に表現している。ゲストボーカルのメリー・クレイトンが「Rape, murder, it’s just a shot away!」と絶叫する瞬間は、60年代末の危機感を象徴する名場面であり、ストーンズのディスコグラフィーの中でも最も象徴的な楽曲のひとつ。
2. Love in Vain
ロバート・ジョンソンのブルース・クラシックをストーンズ流にアレンジ。キース・リチャーズのアコースティックギターとミック・ジャガーのエモーショナルなボーカルが、失われた愛への嘆きを見事に表現している。
3. Country Honk
「Honky Tonk Women」のカントリー・バージョン。フィドル（バイオリン）の音色が加わり、より牧歌的な雰囲気になっている。ストーンズのルーツであるカントリーミュージックへの愛が感じられる。
4. Live with Me
ビル・ワイマンの強烈なベースラインと、ボビー・キーズのサックスが印象的な、ファンキーでグルーヴィーなロックナンバー。ストーンズのセクシャルで挑発的な歌詞が全開の楽曲。
5. Let It Bleed
アルバムのタイトル曲であり、ストーンズらしいルーズなロックンロールが炸裂する名曲。「必要なときはいつでも俺を頼ってくれ」という歌詞には、ストーンズ独特の退廃的な魅力と、どこか皮肉めいたユーモアが込められている。
6. Midnight Rambler
アルバムのハイライトのひとつ。ブルースを基盤にしつつ、曲の展開が大きく変化するドラマティックな構成を持つ。ライヴでは長尺の即興演奏が加わり、ストーンズのライヴパフォーマンスの真骨頂を見せつける楽曲となる。
7. You Got the Silver
キース・リチャーズが初めてリードボーカルを務めた楽曲。アコースティックギターを基調とした、温かみのあるブルースバラードで、彼のソロ作品へとつながるスタイルがすでに確立されている。
8. Monkey Man
ストーンズの楽曲の中でも特にサイケデリックな要素が強い曲。ピアノのイントロから始まり、ファンキーなベースとエッジの効いたギターが絡み合う、独特のグルーヴを持つ楽曲。歌詞は混沌と退廃を象徴するものとなっており、アルバム全体のテーマとシンクロしている。
9. You Can’t Always Get What You Want
アルバムのフィナーレを飾る、壮大なアンセム的バラード。アル・クーパーのフレンチホルンと、ロンドン・バッハ合唱団のコーラスが荘厳な雰囲気を作り出し、ストーンズのキャリアの中でも最も感動的な楽曲のひとつとなった。 「欲しいものが手に入るとは限らないが、時には必要なものを手にすることができる」というメッセージは、アルバムの締めくくりにふさわしい。
総評
『Let It Bleed』は、ローリング・ストーンズの黄金時代の幕開けを告げる名盤であり、60年代末の時代の空気を完璧に捉えた作品である。
ブルースやカントリーのルーツを大切にしながら、そこにロックのダイナミズムと、ストーンズ特有の毒気を加えることで、彼らにしか作り得ないサウンドを生み出している。また、政治や社会の不安定さを反映しながらも、同時にユーモアと反骨精神を失わない姿勢が、このアルバムの魅力をさらに引き立てている。
『Let It Bleed』は、その後のストーンズの方向性を決定づけ、続く**『Sticky Fingers』（1971年）や『Exile on Main St.』**（1972年）へとつながる重要な作品であり、今なおロックの最高傑作のひとつとして評価されている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- The Rolling Stones – Sticky Fingers（1971年）
『Let It Bleed』の流れを汲みつつ、より洗練されたブルース＆ロックンロール。 - The Beatles – Abbey Road（1969年）
同じ1969年にリリースされ、ロックの進化を象徴する名盤。 - Bob Dylan – Blood on the Tracks（1975年）
ストーンズのカントリー＆フォーク的な側面を好むなら必聴。 - The Band – Music from Big Pink（1968年）
アメリカン・ルーツ・ロックの名盤。ストーンズのカントリー・サイドが好きならおすすめ。 - Led Zeppelin – II（1969年）
60年代末のロックの爆発的な進化を象徴する作品。
『Let It Bleed』は、時代の闇と光を映し出した、ローリング・ストーンズの不朽の名作である。
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