アルバムレビュー:I Hate Music by Superchunk

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

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発売日: 2013年8月20日
ジャンル: オルタナティヴ・ロックインディー・ロック


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2. 概要

『I Hate Music』は、ノースカロライナ州チャペルヒルのインディー・ロック・バンド、Superchunk が2013年に発表した通算10作目のスタジオ・アルバムである。
2001年『Here’s to Shutting Up』からの長いインターバルを経て、2010年『Majesty Shredding』で見事に復活した彼らにとって、本作は“ポスト再始動第二章”にあたる作品なのだ。

前作『Majesty Shredding』が、堂々たるカムバック作として“まだこんなに速くてうるさいギター・ポップが書ける”ことを証明した一枚だったとするなら、
その“影”の部分に踏み込んだのが『I Hate Music』である。
リリース前のアナウンスでも、前作の“よりダークな姉妹編”として位置づけられていたように、ここでは加齢や喪失、死、時間の経過といったテーマが、これまで以上に前景化している。

アルバム・タイトルの「I Hate Music(音楽なんて大嫌いだ)」は、もちろん字義通りには受け取れない挑発的なフレーズである。
ローリング・ストーン誌の評者は、“痛みを避けるために人がつい口にしてしまう、強がりのような言葉”だと書いているが、これはまさに本作の核心を突いている。
愛する友人の死と向き合う中で、「音楽は何も取り戻してくれない」という絶望にぶつかり、それでも“それ以外に自分には何もない”から続けるしかない――そんな逆説的な愛情表明としての「I Hate Music」なのだ。

実際、このアルバムは映画監督/アーティストの友人デヴィッド・ドーンバーグに捧げられている。
彼は2012年にガンで亡くなり、バンドや家族の生活に深く関わっていた人物だった。
Pitchfork のレビューは、この喪失がアルバム全体の歌詞に影のように差し込んでいることを指摘し、“事情を知ってから歌詞を読むと、楽しい場面はよりほろ苦く、悲しい場面はさらに痛切に響く”と述べている。

サウンド面では、Superchunk らしいアップテンポでフックの強いギター・ロックは健在である。
「Me & You & Jackie Mittoo」や「FOH」のような疾走曲は、90年代からのファンには“これぞ Superchunk”と言いたくなるタイプのアンセムだろう。
一方で、「Overflows」や「What Can We Do」といった曲ではテンポを落とし、歌詞の重さと対話するような構成が目立つ。
全体に、明るいコードや高揚感のあるメロディの裏側で、絶えず“死のことを考えてしまう40代の視点”がうごめいている感じなのだ。

レーベルはもちろん自らが運営する Merge Records。
作品は音楽メディアから高い評価を受け、Metacritic では平均83点と“概ね絶賛”のスコアを獲得し、バンドにとって2作連続となる Billboard 200 へのチャートインも果たした。
オルタナ世代の“ベテラン・インディー・バンド”が、懐古に閉じこもることなく、現在進行形のロックとして作品を提示した例としても重要なアルバムである。

同時期には、ベーシストのローラ・バランスが聴覚過敏症(ハイパーアクシス)を理由にライヴ活動から退くことを発表している。
スタジオ録音には参加しつつもツアーからは離れざるを得ないという苦渋の決断で、長年の大音量ライヴの代償が顕在化した象徴的な出来事でもあった。
バンドは健康や時間の制約を抱えながらも、なお音楽を続けるという選択をしている。そのリアリティが、『I Hate Music』の歌詞やトーンに深く刻み込まれているのである。


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3. 全曲レビュー

1曲目:Overflows

オープニングの「Overflows」は、本作のムードを決定づける重要な一曲である。
荒々しくも整ったギター・リフと、やや抑えめのテンポの上で、マックの声がスッと立ち上がる。

歌詞では、“死者が知らないこと”“伝えられない言葉”“言えない感情”が積み重なり、自分の中で溢れ出していくイメージが描かれる。
雑誌や書類が部屋に山積みになっていくように、言葉にならない思いが心の中で堆積し、自分自身を埋め尽くしていく――そんな比喩が用いられているのだ。

サウンドは決して重苦しくはなく、むしろ爽やかなギター・ポップに近い。
しかし、明るいコード感と、歌詞に漂う喪失感のズレが、アルバムの“甘いのに苦い”後味を象徴している。
Superchunk らしい高揚感”と“40代以降の実感としての死や時間”が最初から並走していることを示す、見事な導入である。


2曲目:Me & You & Jackie Mittoo

2曲目「Me & You & Jackie Mittoo」は、本作を代表するポップ・アンセムだ。
2分足らずのショート・チューンで、跳ねるようなドラムと、シンプルで覚えやすいギター・リフが、90年代インディー・パンクの黄金感覚をそのまま2010年代に持ち込んでいる。

タイトルに登場するジャッキー・ミットゥは、ジャマイカの鍵盤奏者であり、スカ〜ロックステディを支えた名手。
曲中では、ツアーのバンの中で彼の演奏を聴きながら友人たちと過ごす時間が描かれ、その「音楽でつながる記憶」が、今となっては取り返しのつかないものになってしまったことがほのめかされる。

サビでは、「音楽なんて嫌いだ。だって誰も連れ戻せないし、空白も埋めてくれない」といったニュアンスのフレーズが現れる。
それでも“ほかに頼れるものがないから、続けるしかない”という諦め半分、覚悟半分の気持ちが歌われており、タイトルに込められた逆説的な感情がここで最も直接的に表現されている。


3曲目:Void

「Void」は、ややダークなニュアンスを持つミドルテンポのギター・ロックである。
曲名の“Void(空白/虚無)”が示す通り、言葉を尽くしても埋められない穴のようなものがテーマになっている。

ギターはストレートなパワーコードだけでなく、ところどころ不穏なテンションを含んだコードを挟み込み、
リズム隊はタイトなまま少しきしむようなグルーヴを刻む。
Superchunk らしい勢いを保ちながらも、“何かが欠けている”感覚をサウンドの内側で表現しているのが印象的だ。

歌詞では、日常生活の些細な場面を描きながら、その背後に常にぽっかり空いた“Void”が見え隠れする様子が描かれる。
喪失と共存しながら生きていくことの、どうしようもない違和感と慣れ、その両方が混ざり合った曲である。


4曲目:Staying Home

「Staying Home」は、約1分という短さのパンク・チューン。
バンドがもともと持っていたハードコア寄りのスピード感を、2010年代の文脈で再び鳴らしたような一曲である。

タイトル通り“家にいる”ことを歌った曲だが、その“ステイ・ホーム”は引きこもりでも、社会からの撤退でもない。
外の世界の喧騒や疲弊から距離を置き、自分たちのペースで生き延びるための防衛的な選択としての“家にいる”という感覚が滲んでいる。
怒号にも似たボーカルと、疾走するリフの中に、ささやかな自己保身とユーモアが同居しているのがSuperchunkらしい。


5曲目:Low F

「Low F」は、アルバム前半のハイライトの一つと言ってよい。
6曲中で最も長い4分半超えの尺を持ち、ゆっくりと立ち上がるギターと、どこか不安定なコード進行が、じわじわと緊張感を高めていく。

タイトルの“Low F”は、低い音程のF音と読むこともできれば、“気分が低い=落ち込んだ状態”としての「low」とも重ねて解釈できる。
実際、歌詞の中では、意識していない時にもふと蘇る記憶や、説明のつかない倦怠感が描かれており、“調子の悪い日々”の不穏な空気が続いていく。

途中から歪みが増し、ドラムが打ち鳴らされる展開へとなだれ込むが、カタルシスというよりは、焦燥が増していくような感触に留まる。
“うまく言語化できない落ち込み”を、曲の構造そのもので表現したような一曲なのである。


6曲目:Trees of Barcelona

「Trees of Barcelona」は、アルバムの中でもっとも具体的な地名と記憶が登場する曲だ。
タイトルが示す通り、舞台はスペイン・バルセロナ。Portastatic 名義で出演した2007年の Primavera Sound の記憶が下敷きになっているとされる。

曲調は軽快で、ギターのカッティングとコーラスが爽やかな印象を与える。
しかし、その歌詞に出てくるのは、フェスが終わった後に街を駆け抜ける友人たち、夜の空気、灯り、そして今はもう一緒に歩くことのできない誰かの姿である。

楽しい旅行の思い出のようでいて、その背後には“もう二度と再現できない時間”が潜んでいる。
過去の喜びそのものが、現在では喪失の証拠になってしまう――そんな残酷さを、バルセロナの木々という風景を通してやわらかく描き出した曲である。


7曲目:Breaking Down

「Breaking Down」は、一聴すると軽快なギター・ポップに聞こえるが、タイトルが示すように“崩れていくこと”がテーマの曲である。
リズムは跳ね気味で、コーラスもどこか陽気ですらある。

しかし歌詞の中では、記憶力が薄れてきたり、大事な約束を忘れてしまったりする自分自身への戸惑い、不安が語られる。
Pitchfork のレビューが指摘しているように、“陽気なメロディと、記憶のほころびについてのテキスト”の組み合わせが、本作のダークなユーモアをよく象徴している。

バック・ボーカルには Mount Moriah の Heather McEntire が参加しており、奥行きのあるハーモニーが曲の浮遊感を高めている。
老いとともに避けられない“メモリーの抜け落ち”を、決して嘆きだけではなく、ちょっとした笑いとともに受け止めようとする姿勢が、Superchunk らしい。


8曲目:Out of the Sun

「Out of the Sun」は、アタックの強いギターと、タイトなドラムが印象的なナンバーである。
タイトルの“太陽から外れる”というフレーズには、光から遠ざかっていく感覚と同時に、直射日光から身を守るというニュアンスも含まれているように思える。

歌詞では、自分の居場所をどこに置くべきか、世界の眩しさからどの程度距離を取るべきか、といった迷いが描かれる。
日向と日陰の間で揺れる心理を、ギターのカッティングや、ブレイクを効かせたアレンジで表現しているのが巧みだ。

アルバム全体の中では、テンションを少し上げつつも、“影”のイメージを維持する中盤のピースとして機能している。


9曲目:Your Theme

「Your Theme」は、テンポを落とした、静かながらも感情のこもった楽曲である。
タイトル通り“誰かのテーマ曲”という設定で書かれており、歌詞の中では、親しい友人と過ごす“何も特別ではない午後”への憧れが語られる。

たとえば、“一緒に何かを食べて、人を眺めて、服を見て回るだけの時間が、どれほどかけがえのないものだったか”といったニュアンスのフレーズが登場し、
そこから“もうその時間は戻らない”という痛みがじわじわと滲み出てくる。

ギターは控えめなクリーントーンで鳴らされ、ベースとドラムも丁寧に抑制されたプレイに徹する。
その分、マックの声の震えや息遣いが前に出て、“I Hate Music”という挑発的なタイトルの裏側にある、本当の感情を伝える役割を担っている。


10曲目:FOH

「FOH」は、ライヴ会場の“Front Of House”、つまり客席側のサウンドをコントロールするミキサー卓を意味する業界用語をタイトルにした一曲だ。
Superchunk の長いライヴ歴を踏まえた、ある種の“ツアー・ソング”ともいえる。

冒頭から全開のギターと、突進するドラム、マックのハイトーン・ボーカルが一体となり、アルバム随一の“走る”感覚を生み出している。
歌詞では、“何かを失ったこと”“誰かが戻ってこないこと”を前提に、それでもライヴハウスで音を鳴らし続ける自分たちの姿が描かれる。
問いかけるようなフレーズが繰り返されるが、明快な答えは提示されないまま、ただサウンドの勢いだけが前進していく。

Pitchfork も、この曲を“バンドの歴代ベストに並ぶレベルのアップテンポ曲”として高く評価している。
悲しみと怒り、不安と興奮が混ざり合った状態そのものを、3分半に封じ込めたような名曲である。


11曲目:What Can We Do

ラストを飾る「What Can We Do」は、6分を超えるスロウ〜ミドルの大作であり、『I Hate Music』全体のテーマを総括するような楽曲である。

イントロでは静かなギターから始まり、徐々にバンド全体が加わっていく。
歌詞では、雪の降る角で友人とまた会う約束をするイメージや、年齢を重ねた自分の姿が描かれ、そこに「さよならとは言わない」という決意が添えられる。
別れを認めつつも、あえて“別れ”という言葉を避ける矛盾した態度――それこそが、愛する人の死と向き合う現実的な心の動きなのだろう。

タイトルの「What Can We Do(僕らに何ができるだろう)」という問いは、そのままアルバム全体にもかかっている。
音楽は死者を蘇らせることはできないし、喪失を完全に癒やすこともできない。
それでも、残された者にとって「音楽を鳴らすこと」「歌詞を書くこと」以外にできることがほとんどない――
そんな無力さと、それでも続けるという意志が、この曲のクレッシェンドの中で交錯していく。

エンディングは大爆発ではなく、じわじわと感情が積み重なった末に、静かな余韻を残して終わる。
“音楽なんて嫌いだ”というタイトルのアルバムを締めくくるのに、これ以上ふさわしい曲はないだろう。


4. 総評

『I Hate Music』は、Superchunk の長いキャリアの中でも、特に“人生の後半戦”を見据えた重要作である。
それは単に、メンバーの年齢が40代に差し掛かっているという意味だけではない。
友人の死、健康問題、インディー・シーンの変容、家族や仕事との両立――そうした具体的な現実が、作品の内側に深く入り込んでいるからである。

前作『Majesty Shredding』は、“長い空白を経ても Superchunk はまだ速くてうるさくて、最高にキャッチーだ”という事実を証明した。
それに対して本作は、“同じサウンド・フォーマットのまま、どこまで感情の奥に潜っていけるか”という問いに挑んだアルバムだと言える。
メロディやコード進行は、依然としてポップ・パンク〜ギター・ポップの王道に乗っている。
しかし、その歌詞やアルバム・タイトルは、10代〜20代の頃には書けなかったであろう重さと複雑さを持っている。

批評的な評価も、その点を高く評価している。
Metacritic では平均83点と高得点を獲得し、Rolling Stone は“黄昏の中で悪魔と格闘するロック・ベテランたちが、甘くてノイジーなフックで対抗している”と評した。
Alternative Press も“いつもより暗い領域に踏み込んだが、10枚目にしても駄作がないバンドである”と太鼓判を押している。

サウンド面では、“速い曲は速く、遅い曲はじっくり”という明確なコントラストが特徴的だ。
「Me & You & Jackie Mittoo」や「FOH」のようなアップテンポ曲は、90年代の『No Pocky for Kitty』あたりを思わせるスピードと高揚感を持ちながらも、
プロダクションはよりクリアで、ギターの多重録音やコーラスの重ね方にも、長年の経験に基づく精度が感じられる。

一方、「Overflows」「Low F」「Your Theme」「What Can We Do」といったスロウ〜ミドルの楽曲では、
マックのボーカルが前景化し、歌詞の一行一行がしっかりと耳に届くようなミックスがなされている。
アコースティック・ギターやシンセのさりげない導入も、Portastatic での活動やソロ作品で培われた、“静かなギター・サウンドの扱い方”が生かされている印象だ。

興味深いのは、テーマが暗くなったにもかかわらず、アルバム全体が決して“暗鬱な作品”としては感じられない点である。
むしろ、光と影のコントラストが強まったことで、Superchunk のポップ・センスがより鮮明に際立っている。
Pitchfork が“最も暗いアルバムだが、中速ばかりで沈んでしまうわけではない”と書いている通り、
バンドはあくまで“アンセムを書くこと”をやめていない。

また、Laura Ballance の聴覚問題という現実も、このアルバムを読み解くうえで見逃せない。
インタビューによれば、彼女は長年の大音量ライヴの中でハイパーアクシスを発症し、
スタジオ録音ではコントロール・ルームに立つなど、音量との付き合い方を工夫せざるを得なくなったという。
それでもバンドを辞めず、形を変えながら活動を続ける姿は、“I Hate Music”というタイトルの裏にある“それでも音楽を手放さない”という態度と重なって見える。

『I Hate Music』は、単に“ベテランが出した良質なインディー・ロック・アルバム”という枠を超え、
“長く音楽を続けてきた人間が、喪失と老いとどう折り合いをつけるか”という普遍的なテーマを、ギター・ロックというフォーマットで真正面から扱った作品である。
その意味で、本作は Superchunk というバンドだけでなく、90年代オルタナ〜インディー世代の多くのアーティストにとっても、象徴的な一枚だと言えるだろう。

現在から振り返っても、『I Hate Music』はまったく“過去の音”になっていない。
むしろ、パンデミックや社会不安を経た2020年代の私たちの耳には、“音楽なんて嫌いだ”と言いながらそれでも鳴らし続ける姿が、以前にも増してリアルに響く。
Superchunk を初めて聴くリスナーにとっても、90年代の代表作と並んで最初に手に取るべき重要作として、強くおすすめしたいアルバムである。


5. おすすめアルバム(5枚)

  1. Majesty Shredding / Superchunk(2010)
    約10年ぶりのフル・アルバムとして“復活”を告げた9作目。
    『I Hate Music』がその“影”だとすれば、こちらは“光”の側面にあたる作品で、同じポスト再始動期の2枚を聴き比べることで、バンドの感情の振れ幅がより鮮明に見えてくる。
  2. Here’s Where the Strings Come In / Superchunk(1995)
    90年代中期の代表作。
    ギター・ポップとパンク的衝動のバランスが絶妙で、『I Hate Music』のメロディ志向と聴き比べると、20年近い時間の中でサウンドがどう成熟していったかが分かる。
  3. What a Time to Be Alive / Superchunk(2018)
    『I Hate Music』から5年後、政治的な怒りと社会不安を正面から扱った作品。
    パーソナルな喪失から、より社会的なテーマへと関心が広がっていく流れを見るうえで、この2枚を続けて聴くとバンドの「2010年代三部作」の輪郭がはっきりしてくる。
  4. Beyond / Dinosaur Jr.(2007)
    同じくオルタナ世代のバンドによる、見事な“第二幕”のスタート地点となったアルバム。
    歪んだギターと強いメロディ、そして加齢や時代の変化を受け止めながらも走り続ける姿勢という意味で、『I Hate Music』と通じるものが大きい。
  5. Wild Loneliness / Superchunk(2022)
    パンデミック期の孤独や不安をテーマにした近作。
    ゲストも多く、サウンドは少し柔らかくなっているが、“Majesty Shredding→I Hate Music→What a Time to Be Alive→Wild Loneliness→Songs in the Key of Yikes”という流れで聴くと、
    Superchunk が2020年代まで一貫して“現在”と向き合い続けているバンドであることがよく分かる。

6. 制作の裏側

『I Hate Music』の録音・ミックスには、前作『Majesty Shredding』に続いてスコット・ソルターやボー・ソーレンソン、ジョン・プライメイルといったエンジニア陣が参加している。
楽曲ごとに録音・ミックスの担当が分かれており、「Void」「Staying Home」「FOH」などはソーレンソンの手で、そのほかの多くはソルターが手がけている。
「Overflows」や「Me & You & Jackie Mittoo」はプライメイルがミックスを担当し、全体の音像に微妙な違いを持たせつつも、“バンド一体感”を崩さないよう設計されている。

マスタリングはボストンの Peerless Mastering によるもので、エンジニアは Jeff Lipton。
彼は『Majesty Shredding』や他のインディー作品でも知られており、パンチのあるラウドネスを保ちながらも、
中域のギターとボーカルがクリアに聴こえるようなバランスを得意とするエンジニアである。
アシスタント・マスタリングは Maria Rice が務め、細かなトーン調整をサポートしている。

ジャケットのアートワークは、マック自身のペインティングによるもの。
ド派手なロゴや人物写真ではなく、どこか抽象的で、子どもの絵のような素朴さと、不穏な空気が同居したイメージになっている。
“音楽なんて嫌いだ”と題されたアルバムに、あえて過度に説明的でない絵を置くことで、聴き手に解釈の余地を残しているようにも思える。

ローラ・バランスがすでにハイパーアクシスを抱えていたこともあり、レコーディングにおいては、音量とモニタリングのコントロールが重要な課題だった。
彼女はインタビューで“以前のようにドラマーの隣で爆音を浴びるのではなく、コントロール・ルーム側で演奏するようにした”と語っており、
スタジオ録音の現場でさえ、聴覚のケアをしながら制作に臨んでいたことが窺える。

その意味でも、『I Hate Music』は単なる“創作の産物”というより、
“身体的な限界を踏まえたうえで、なお音楽を続けるための工夫”が刻み込まれた作品である。


7. 歌詞の深読みと文化的背景

『I Hate Music』というタイトルは、インディー・ロック・バンドが掲げるにはあまりに過激で、ある種のジョークにも見える。
しかし、マック自身はインタビューで“完全な皮肉ではなく、本当にそう感じる瞬間がある”と語っている。
若い頃には想像もしなかったが、年を重ねるにつれて、時折“音楽なんて嫌いだ”と言いたくなる瞬間があるのだ、と。

その背景にあるのが、デヴィッド・ドーンバーグの死である。
彼はバンドや家族と深く関わった友人であり、マックはブログで“彼がいなくなって初めて、その存在が生活のどれだけ大きな部分を占めていたかに気づいた”と綴っている。
『I Hate Music』は、彼に捧げられたアルバムとして、“喪の作業”をギター・ロックに落とし込んだ作品なのだ。

「Me & You & Jackie Mittoo」における“音楽は誰も連れ戻してくれない”という主旨のフレーズは、
音楽というものの“無力さ”に直面した瞬間の言葉である。
しかし同時に、“それでも自分には音楽しかないから、ここから続けるしかない”という自己確認でもある。
こうした二重性は、サミュエル・ベケット的な「行けない、しかし行かなければならない」といった逆説を思わせる。

また、アルバムの多くの歌詞には、具体的な地名や場面が頻繁に登場する。
バルセロナの街路樹、ツアーのバンの中、雪の降る角、ライヴハウスの FOH ブース…。
これらはすべて、特定の友人や時間と結びついた“個人的な場所”であると同時に、
インディー・ロック文化を共有してきたリスナーにとっても、“どこか心当たりのある光景”として響く。

文化的背景として興味深いのは、2010年代前半が、いわゆる“オルタナ/インディー第一世代”にとって、
40代〜50代への入口にあたる時期だったという点だ。
彼らが活動を始めた80〜90年代には、ロックはまだ“若者の音楽”と見なされることが多かったが、
2010年代には、その世代が“中年ロッカー”としてシーンに居続けること自体が当たり前になりつつあった。

そうした状況の中で、『I Hate Music』は“歳を取りながらもインディー・ロックであり続けること”の意味を問い直すアルバムとなっている。
家族や仕事、健康問題を抱えながらも、かつてと同じようにツアーへ出ることの困難さ。
友人の死と向き合いながら、それでもライヴハウスで音を鳴らす意味。
作品はこれらの問いに直接答えを与えはしないが、“問い続けること”自体がロックであり続けることなのだ、という態度が貫かれている。


9. 後続作品とのつながり

『I Hate Music』は、その後の Superchunk の作品群を理解するうえで欠かせない“転換点”である。
2018年の『What a Time to Be Alive』では、個人的な喪失から一歩進んで、政治的な怒りや社会的不安が前面に押し出される。
トランプ政権下のアメリカに対する苛立ちや恐怖が、速度を増したパンク・チューンとして結晶化し、
Pitchfork も“25年ぶりにここまで速く激しいアルバムを作ったが、その怒りは年齢相応のものとしてしっかり文脈を持っている”と評価している。

2020年代に入ると、パンデミックを背景にした『Wild Loneliness』、そして2025年の『Songs in the Key of Yikes』へと続いていく。
最新作のレビューは、これらのアルバムを“2010年の『Majesty Shredding』から続く第二章の連なり”として捉えており、
個人的な喪失(『I Hate Music』)と社会的な不安(『What a Time to Be Alive』『Wild Loneliness』)が、そのまま現在の“混乱と希望の同居”へつながっていると指摘している。

この長い流れの中で、『I Hate Music』は、
“初期 Superchunk のギター・ポップ・パンク・フォーミュラを維持したまま、深い悲しみや老いをどう歌うか”という課題に最初に正面から取り組んだ作品として位置づけられる。
以降のアルバムで扱うテーマ――政治、パンデミック、社会不安――は、
『I Hate Music』で獲得された“明るいサウンドと重いテーマの共存”という手法によって、より説得力を持つようになったと言えるだろう。


参考文献

  • Wikipedia「I Hate Music (album)」(作品基本情報、トラックリスト、評価、チャート)
  • Superchunk Bandcamp「I Hate Music」(収録曲、録音/ミックス/マスタリング・クレジット)
  • Pitchfork「Superchunk: I Hate Music Album Review」(作品全体のテーマ、デヴィッド・ドーンバーグへの献呈、各曲への言及)
  • Stereogum「Turntable Interview: Superchunk’s Laura Ballance」(ローラ・バランスのハイパーアクシスとライヴ活動休止について)
  • The Stranger「I Hate Music: Okay, Superchunk, Let’s Talk About Something Else」(アルバム・タイトルの意味とマックの発言)
  • Metacritic / AllMusic / Rolling Stone / Alternative Press のレビュー集約(批評家評価・スコア)
  • Pitchfork「Superchunk announce new album I Hate Music」(“Majesty Shredding のダークな姉妹編”としての位置づけ)
  • Pitchfork「Superchunk: What a Time to Be Alive Album Review」、および「Songs in the Key of Yikes Album Review」(ポスト『I Hate Music』期の位置づけと連続性)

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