発売日: 2004年5月4日
ジャンル: インディーポップ、バロックポップ、アコースティック
The Magnetic Fieldsの7作目となるアルバムiは、Stephin Merrittがアルバム全曲のタイトルを「i」から始めるというコンセプトに基づいて制作した作品だ。このユニークな制約のもとで生み出された楽曲は、彼らの多彩な音楽性をさらに際立たせる結果となった。本作では、アコースティックなサウンドが中心となり、以前のシンセポップやローファイなアプローチから一歩距離を置いた、バロックポップ的な洗練された雰囲気が漂っている。
歌詞にはStephin Merrittの特有の皮肉やメランコリーが引き続き散りばめられ、恋愛や孤独、自己反省などのテーマが深く掘り下げられている。簡素なアレンジと詩的な表現が融合したアルバムは、The Magnetic Fieldsの新たな一面を見せる意欲作と言える。
各曲ごとの解説
1. I Die
アルバムの幕開けを飾るメランコリックなバラード。ピアノと控えめなストリングスが印象的で、死と自己消失をテーマにした歌詞が胸を締め付けるような一曲。
2. I Don’t Believe You
軽快なテンポとキャッチーなメロディが特徴のトラック。恋愛における信頼の揺らぎを描いた皮肉の効いた歌詞が、ポップなサウンドと絶妙にマッチしている。
3. I Don’t Really Love You Anymore
シンプルなギターの伴奏に乗せて、別れと感情の断絶をテーマに歌った楽曲。淡々とした語り口調の歌詞が、Stephin Merrittの皮肉っぽい魅力を引き立てる。
4. I Looked All Over Town
ジャジーなピアノアレンジと物憂げなメロディが特徴のトラック。恋人を探し求める心の彷徨を描いた歌詞が詩的だ。
5. I’m Tongue-Tied
ストリングスを取り入れた美しいアレンジが際立つ楽曲。内気さや自己表現の困難さをテーマにした歌詞が、多くのリスナーの共感を呼ぶ。
6. In a Public Place
暗くミステリアスな雰囲気を持つ楽曲で、パブリックスペースにおける疎外感を描写している。控えめなアコースティックアレンジが歌詞の孤独感を際立たせている。
7. Infinitely Late at Night
シンプルなピアノと深いバリトンボイスが印象的なトラック。孤独で静謐な深夜の雰囲気を完璧に捉えた歌詞とサウンドが見事だ。
8. Irma
ミステリアスで軽快なワルツ調の楽曲。歌詞にはストーリー性があり、まるで映画の一場面のような雰囲気を持つ。
9. Is This What They Used to Call Love
恋愛の懐古的な視点を描いた切ない一曲。シンプルなアレンジが歌詞の感情を引き立て、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。
10. It’s Only Time
アルバムのハイライトとも言える純粋でロマンティックな楽曲。結婚式でも使われることが多いほどの美しいラブソングで、希望と愛を歌い上げている。
フリーテーマ:制約の中で生まれた創造性
iは、全曲タイトルを「i」で始めるという制約のもとで制作されたが、その枠組みが音楽性を縛ることなく、むしろ自由な創造性を引き出している。シンプルなアレンジと詩的な歌詞の中に、Stephin Merrittの豊かな感受性が表れており、The Magnetic Fieldsの音楽が持つ多様な魅力を改めて感じることができる作品だ。
アルバム総評
iは、The Magnetic Fieldsのキャリアの中でユニークな位置を占めるアルバムである。以前のシンセポップやローファイなサウンドとは一線を画し、アコースティックとストリングスを中心としたアレンジが、Stephin Merrittの歌詞とボーカルをより際立たせている。ミニマルながらも深い感情を湛えたこのアルバムは、シンプルな美しさを追求したいリスナーにとって必聴の一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Holiday by The Magnetic Fields
シンセポップ色の強い初期作で、Stephin Merrittの作風のルーツを感じられる。
69 Love Songs by The Magnetic Fields
多様なスタイルと深い歌詞が魅力の、バンドの代表作。
The Wayward Bus by The Magnetic Fields
アコースティックとストリングスが融合したアルバムで、初期のローファイな魅力を堪能できる。
Illinois by Sufjan Stevens
バロックポップと詩的な歌詞が共通点。アルバム全体に一貫性がある点も類似している。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
静かで内省的なサウンドと感情的な深みが、iに通じるものがある。
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