1. 歌詞の概要
「Gates of Steel」は、Devoが1980年に発表したアルバム『Freedom of Choice』に収録された楽曲であり、彼らのディスコグラフィの中でも最も力強いメッセージを持つナンバーのひとつである。歌詞は、社会やシステムに抑圧されながらも「魂の声は封じられない」というテーマを掲げ、退廃や管理の時代を生き抜く人間の抵抗を描いている。
タイトルにある「鋼鉄の門(Gates of Steel)」は、自由や意志を閉ざす障壁のメタファーであり、そこを突破するために必要な「心の強さ」や「純粋な精神力」を象徴している。表面的にはDevo特有の皮肉や冷笑が漂うが、その奥底には「人間の可能性を信じる」ニュアンスも読み取れる、彼らにしては珍しい希望を感じさせる曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Gates of Steel」は、ジェラルド・カセールとマーク・マザーズボーの共作によって生まれた。1970年代末、Devoは「退化論(De-evolution)」を掲げ、人類は進化しているどころかむしろ退化しつつあると主張していた。その思想は冷笑的かつシニカルだが、この曲では「退化の檻を破ろうとする可能性」も示されている。
アルバム『Freedom of Choice』はシングル「Whip It」のヒットによって大成功を収めたが、「Gates of Steel」は商業的にはシングル化されなかったものの、バンドの思想的中心を担う曲としてファンの間で長く評価されてきた。ライブでもしばしば演奏され、その高揚感あるリフと強烈なリズムは観客を熱狂させる定番曲となっている。
特に注目すべきは、この曲が当時のニューウェイヴ的な冷たさの中に「人間的な情熱」を見せた点である。Devoはしばしば無機質で機械的と評されるが、「Gates of Steel」には「壁を突き破れ」という直截なエネルギーが込められており、バンドの中でも異彩を放っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(歌詞引用元:Devo – Gates of Steel Lyrics | Genius)
A man is real, not made of steel
人間は本物であり、鋼鉄でできているわけではない
But the gates of steel, must be broken
だが鋼鉄の門は打ち破られねばならない
Half a mind to say all the things
心の半分はすべてを語ろうとし
That we should
語るべきことを
While the other half
だがもう半分は
Is nearly good
ほとんど黙り込んでしまう
Gates of steel, leave you standing all alone
鋼鉄の門は君を孤独に立たせる
シンプルで反復的な言葉ながら、抑圧と抵抗、自由への希求がストレートに伝わってくる。
4. 歌詞の考察
「Gates of Steel」は、Devoの作品群の中でも異例なほど力強い「解放のメッセージ」を持つ曲である。通常の彼らは「人間の退化」を冷笑的に描くが、この曲では「抑圧を突き破る可能性」を強調している。
「A man is real, not made of steel」という一節は、人間が機械や鋼鉄のように完璧でも無敵でもないことを認めつつも、その脆さこそが本当の強さにつながると暗示している。また「Half a mind…」の部分では、人間が常に葛藤を抱え、真実を語ることをためらう姿が描かれるが、それでも「鋼鉄の門を打ち破れ」と呼びかけることで、その弱さを超える希望を提示している。
音楽的にも、この曲はDevoの特徴的なロボット的リズムの上に、アグレッシヴなギターリフと高揚感あるヴォーカルが重なり、シニカルさと熱さが共存している。つまりこの曲は「Devo流の反抗の歌」であり、ニューウェイヴにおけるユニークな“希望のアンセム”といえるだろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Freedom of Choice by Devo
同アルバムの表題曲で、「自由」という概念を皮肉に描いた哲学的アンセム。 - Jocko Homo by Devo
「退化論」を直接的に歌い上げた哲学的代表曲。 - Uncontrollable Urge by Devo
衝動の爆発を音楽化したデビューアルバムのオープニング曲。 - Life During Wartime by Talking Heads
監視社会と抵抗を描いたニューウェイヴの代表曲。 - Transmission by Joy Division
抑圧と解放をテーマにしたポストパンクの名曲。
6. 「Gates of Steel」の象徴性
「Gates of Steel」は、Devoが単なる皮肉屋ではなく、人間の可能性や抵抗の力をも音楽に込められるバンドであることを示した重要な楽曲である。彼らのコンセプト「退化論」を踏まえれば、これは「退化を超えるための突破口」を提示する試みであり、閉ざされた未来に風穴を開ける希望の歌でもある。
ニューウェイヴの冷たい機械性に覆われながらも、この曲には確かな人間的熱量が宿っている。それは同時代のポストパンクやニューウェイヴの楽曲の中でも特異で、今日に至るまでリスナーに「壁を打ち破れ」という普遍的なメッセージを伝え続けている。
結果として「Gates of Steel」は、Devoのキャリアの中でも思想的・音楽的に突出した名曲であり、彼らの冷徹な批評精神と人間的な希望の矛盾を融合させた象徴的作品なのである。
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