発売日: 1978年1月20日
ジャンル: ニュー・ウェイヴ、パンク、ポストパンク
概要
『White Music』は、XTCが1978年にリリースしたデビュー・アルバムであり、ニュー・ウェイヴ黎明期に現れた“ひときわ異質な知性と過剰なテンション”を持ったバンドの登場を高らかに告げた作品である。
ロンドン・パンクが席巻する最中に発表された本作は、粗削りなビートと鋭いギターに加えて、アンディ・パートリッジの饒舌かつエキセントリックなヴォーカル、そして不可解な言語感覚が強烈な個性として響いている。
アルバムタイトルの“White Music”は、黒人音楽の“Black Music”に対するカウンター/パロディであり、白人由来のアートスクール的で神経質な音楽を指す自虐的ジョークでもある。
実際、その音楽性は黒人音楽のリズムやグルーヴから意図的に距離を置き、機械的でせわしなく、鋭角的なアレンジによって“不協和音の中の快楽”を突き詰めている。
当時のパンク/ニュー・ウェイヴシーンにおいては、Talking Headsのようにインテリジェンスと奇妙さを武器にしたバンドも登場していたが、XTCはさらに“音楽で早口言葉をやる”ようなスピードと複雑さで、明らかに異質な座標を示していた。
全曲レビュー
1. Radios in Motion
ギターのカッティングと駆け抜けるテンポが印象的なオープニング・ナンバー。
ラジオから放たれる混乱と衝動をそのまま体現するような、疾走感とアイロニーが混じった曲。
“いきなり走り出す”XTCの世界観を象徴する一曲。
2. Crosswires
緊張感の高いギターリフと、マッドなヴォーカルが絡む短編パンク。
“交差した配線”というタイトル通り、神経が混線したようなサウンドが展開される。
3. This Is Pop?
本作の核心とも言えるメタ視点のパンク・アンセム。
“これはポップか?”という問いに、XTCなりのポップ=混乱、反復、アイロニーという答えをぶつけている。
後に再録されたことからも、バンドにとっての重要性がうかがえる。
4. Do What You Do
キャッチーなメロディと鋭いコード進行が混在する一曲。
“君のやりたいことをやれ”というシンプルな命題を、どこか強迫的に響かせている。
5. Statue of Liberty
アメリカの自由の女神を題材にした風刺的ポップ・チューン。
ビートルズ的なコーラスと、ひねくれた歌詞が特徴。BBCで“性的”として放送禁止になった逸話も有名。
6. All Along the Watchtower
ボブ・ディランの名曲を高速ニューウェイヴ・パンクとして再解釈。
原曲の神秘性をまったく別物として“神経質なカヴァー”に変えてしまった暴力的美学。
7. Into the Atom Age
機械文明と個人の感情の断絶を描いた、アトミック時代のポップ・カオス。
タイトル通り“原子時代へ突入”するような衝動が音で炸裂する。
8. I’m Bugged
“俺はバグってる”という、完全に狂気に振り切ったパンク・ソング。
神経質なコード進行と奇声のようなヴォーカルが、躁鬱的テンションを描く。
9. New Town Animal in a Furnished Cage
おしゃれな家具に囲まれた“新しい町の動物”=都市生活者のアイロニーを描いたポップ・パンキッシュな一曲。
狭苦しい生活と表面上の幸福のギャップを鋭く突いている。
10. Spinning Top
“コマのようにぐるぐる回る”日常のルーティンをテーマに、ひたすら目まぐるしく展開する曲。
メロディの裏で不安と高揚が同時に走る。
11. Neon Shuffle
アルバムのラストを飾るにふさわしい、都市と夜をテーマにしたダンサブルなナンバー。
“ネオンに照らされた身体の動き”を不自然なビートで描く。
ダンスミュージックのパロディでありながら、どこか本気でもある。
総評
『White Music』は、XTCというバンドの“脳内ショートサーキット”をそのまま音にしたようなデビュー作であり、パンク/ニュー・ウェイヴの中でも群を抜いて知的で、同時に制御不能なテンションに満ちている。
音楽的にはポップ、しかし構造はパンク、語り口は哲学的かつユーモラスであり、そのミスマッチ感がXTC特有の美学を形成している。
以降のXTCは、よりメロディアスで洗練されたポップへと向かっていくが、その“偏屈さ”や“非合理なエネルギー”はこのデビュー作にすでに結晶化されている。
『White Music』は、ポップとは何か、歌とは何かを根底から再定義しようとする“未整理な革命”の記録なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Wire – Pink Flag (1977)
ミニマルでインテリジェントなパンク。XTCの同時代的兄弟作。 - Talking Heads – 77 (1977)
神経質でポップな都市感覚。『Neon Shuffle』的感性と共鳴。 - Devo – Q: Are We Not Men? A: We Are Devo! (1978)
ポップと狂気の境界線。XTCと同様の知性と不穏さを持つ。 - The Rezillos – Can’t Stand the Rezillos (1978)
キッチュでパワフルなニューウェイヴ・パンク。『Statue of Liberty』の延長線。 - Magazine – Real Life (1978)
ポストパンクのメロディックでシニカルな側面。『This Is Pop?』的メタ視点と親和性が高い。
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