発売日: 1975年9月
ジャンル: ハードロック、アリーナ・ロック、ブルースロック
概要
『Ted Nugent』は、アメリカのギタリスト／シンガーであるテッド・ニュージェントが1975年に発表した初のソロ・アルバムであり、それまでのAmboy Dukesでの活動から独立した“ギターヒーロー”としての飛躍を決定づけた作品である。
ブルースロックを基盤に、アメリカ的な豪快さとスピード感、そして強烈なリフの連続――本作はまさに“肉体の音楽”とも言える痛快なハードロックの塊である。
アルバムは全米チャートで高順位を記録し、特に代表曲「Stranglehold」や「Hey Baby」のヒットによって、テッド・ニュージェントは1970年代中盤のアリーナ・ロックシーンを代表する存在となった。
本作の特徴は、何と言ってもニュージェント自身のギタープレイにある。
長尺のソロ、フィードバックの巧妙なコントロール、ブルーススケールを基盤にしながらも圧倒的なスピードで畳みかけるプレイは、単なる技巧を超えた“暴力的な美しさ”を帯びている。
加えて、バンドメンバーには後にNight Rangerで活躍するジャック・ブレイズや、パワフルなヴォーカルを担うデレク・セント・ホームズが参加。
ソロ名義ながらバンド的な一体感も強く、ライヴ的なエネルギーがスタジオにそのまま封じ込められている。
全曲レビュー
1. Stranglehold
アルバムの幕開けにして、テッド・ニュージェントのキャリアを象徴する名曲。
8分に及ぶ長尺の中で展開されるギターソロは、リズムの波に乗るように浮遊し、時に咆哮し、そして恍惚へと至る。
ヴォーカルはデレク・セント・ホームズが担当し、クールでタフな歌声が暴力的なリフと対照を成している。
2. Stormtroopin’
スピード感と攻撃性に満ちたハードロック・ナンバー。
タイトルは“突撃隊”を意味し、リフの連射がまさに突撃のようにリスナーに迫る。
ポリティカルなニュアンスも含まれるが、あくまでサウンド重視の痛快な一撃。
3. Hey Baby
デレク・セント・ホームズが作詞作曲とヴォーカルを務めた、ブルージーでメロウな楽曲。
アルバムの中でもっとも親しみやすい一曲で、サザンロック的な温かみも漂う。
バンドとしての幅広さを示す好例。
4. Just What the Doctor Ordered
“ドクターのお墨付き”というタイトル通り、ハードロックの処方箋のような痛快さ。
リフとリズムの疾走感が素晴らしく、ニュージェントのギターが縦横無尽に暴れる。
5. Snakeskin Cowboys
南部風の香りをまとったヘヴィ・ロック。
“ヘビ革のカウボーイ”というキャラクターは、荒々しくも魅力的なアメリカ的英雄像のメタファーとして描かれる。
6. Motor City Madhouse
デトロイト出身のニュージェントらしい、疾走感ある“狂気”の賛歌。
高速リズムに乗せて、ギターとドラムが一体となって突き進む。
“モーターシティ”＝デトロイトを称えるローカル・アンセム的楽曲。
7. Where Have You Been All My Life
ゆったりとしたイントロから始まる、ソウルフルなハードロック・バラード。
ブルース的表現の中に、真摯な感情が込められている。
ヴォーカルの表現力が光る。
8. You Make Me Feel Right at Home
ミディアム・テンポの温かなナンバー。
アルバム全体の中で、感情的な緩急を与える一曲であり、ライヴでの休息点としても機能しそうな楽曲構成。
9. Queen of the Forest
ラストにふさわしいスリリングなハードロック・ナンバー。
女王という名の幻想／誘惑／脅威を、ギターの咆哮と共に描き出す。
ソロも充実しており、アルバムの締めとしてのカタルシスに富んでいる。
総評
『Ted Nugent』は、アメリカン・ハードロックの“肉体派”としての側面を極限まで研ぎ澄ませたアルバムであり、テッド・ニュージェントという存在をロック史に強く刻みつけた決定的なデビュー作である。
その魅力は、何よりも“ギターそのものが言葉を喋っている”かのような表現力にあり、単なる速弾きではなく、叫び、うねり、引き裂くような情感が一音一音に込められている。
加えて、デレク・セント・ホームズのヴォーカルが、ニュージェントのギターの奔放さと好対照をなすことで、作品としてのバランスを保っている。
1970年代のアメリカにおけるアリーナ・ロック、バイク文化、銃社会、自由の幻想といった複雑な要素を音楽的に象徴するアルバムでもあり、同時代のAerosmithやKISSと並び称されるにふさわしいエネルギーを放っている。
今なおその“爆音のカタルシス”は色褪せることなく、ハードロックの本質を知る上で避けては通れない一枚と言えるだろう。
おすすめアルバム（5枚）
- Aerosmith – Toys in the Attic (1975)
同年のリリース。アメリカン・ロックの荒々しさとメロディセンスが共通。 - Montrose – Montrose (1973)
ギター・ヒーロー系ハードロックの先駆。短くも鋭い名盤。 - KISS – Hotter Than Hell (1974)
グラマラスでパワフルなアメリカ的ロック。ニュージェントとの兄弟感あり。 - ZZ Top – Tres Hombres (1973)
ブルースと南部のグルーヴが共通し、よりルーツ志向なロックが楽しめる。 - Blue Öyster Cult – Agents of Fortune (1976)
ギター・ロックの実験性とメロディの共存。ニュージェントの攻撃性との好対照。
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